03
「下ネタは苦手なタイプなんですか?」
「別に。ただまざまざと惚気られるのは腹が立つやろ」
「確かに」
どうせ祐樹はニヤニヤしてるに違いない。声が一段と浮ついてる為か見なくても分かった。きっと自分に卑猥なことを言ってどう反応するのか試しているのだ。顔に水滴はもう無いがタオルで拭き取るフリをする。
「ああ、髪の毛までビショビショや」
流石に顔を隠すのも限界に近づき、由依はタオルで髪の毛を吹いた。その際に祐樹の顔を見たがやはりニヤニヤしていた。
「凄い降ってますよね。すぐやめばいいけど」
「そうやな。うち傘持って無いから帰れへんなぁ」
「いざとなったら僕のを貸しますよ」
「そういうわけにいかへんよ。先生を犠牲にしてまで借りたない」
2人で並んで外の景色を見た。まるでバケツをひっくり返したように雨粒がまとまって落ちている。雷は鳴ってないようだが、夕立のようなものだろう。例えここで髪の毛や服を乾かしても雨が止まなければ意味がない。それでも由依は濡れたままの頭が気持ち悪かった。
「なぁ先生。ここにドライヤーとか無いん?」
「ドライヤーですか? うーん......」
タオルは保健室の物ではあるがドライヤーまでは無いだろう。祐樹の難しい顔を見て由依は悟った。
「そうだ。教室にならあるかも。由依さんちょっと付いてきて」
「教室?」
何か見当が付いているのだろうか。祐樹の歩みに合わせて由依も歩き始めた。
電気が点いていない階段を登り廊下を渡る。見慣れた光景ではあるが、薄暗かったりするせいかいつもと雰囲気が違うように感じた。周りを気にしながら進んでいると祐樹の足が止まった。そこは祐樹が担任をしている教室である。
「えーと加藤玲奈......」
教室の脇の廊下には生徒が荷物を入れる為のロッカーが鎮座している。祐樹は誰かのロッカーを探しているようだ。
「ここだっ」
祐樹は『加藤玲奈』と書かれたロッカーを開けた。が、お目当の物は入って居なかったらしく、すぐにガシャンと音を立てながら閉めた。おそらく、生徒の誰かがドライヤーを持っていると祐樹は思ったのかもしれない。
「勝手に開けていいんか?」
「うん。大丈夫、後で言っとくから」
もし自分が、勝手に教師にロッカーを開けられたらその教師に嫌悪感を感じるだろう。だが祐樹は別な気がした。つまりそれだけ祐樹とクラスの生徒は親密な関係なのか。
「やっぱり『こみ』のロッカーにあった」
祐樹は複数のロッカーを開け探し出したようだ。手にはピンクのドライヤーが抱えられていた。『こみ』というのは生徒の込山榛香のことらしい。
「はい。教室にコンセントあるから中で乾かせますよ」
「ありがとな。私からも込山ちゃん? にお礼を言っとくわ」
由依はドライヤーを受け取る。とにかく髪を乾かせる、そう思うと心が安堵した