由依
01
「降ってきそうやな......」

 そう呟き空を見上げた由依は鉛色の曇り空から雨の匂いを感じ取った。空気もひんやりとしていて、スカートから出ている足が寒かった。久しぶりにスカートを短くして外へ出たのに。由依は少しだけ悔しがった。
 家までは走って戻れる程の距離ではない。走って戻った上に雨で濡れるのであれば同じことだと思い、前へ足を進めることに決めた。

 心に決めてから10歩ほど歩いたところで視界に雨粒が見えた。そして地面が濡れ始めたことに気付いた。
しばらくドット柄のように濡れていく地面を見つめていたがそのスピードは早く、あっという間に濃い色となった。由依は流石にまずいと思い、頭を腕で隠すと目的もなく走り出す。雨は容赦無く降り、あっという間に水を浴びたようになってしまった。

 早速雨宿りを考え始めた由依はキョロキョロと周りを確認しながら走るが、住宅ばかりで想像しているような建物は見つからない。

「そうや。この先に学校があるんや」

 この道は自分が通うマジ女へ道であることに気が付いた。無断で入っても怒られないのはそこしかないだろう。塀に囲まれた道の角を曲がると見慣れた建物が確認できた。もう地面は水が溜まり足を進めるごとに水が跳ね返る。靴下と靴は変えなければならない。

 マジ女へ着いたが校門には鉄の柵があり入れないようになっていた。自分が登校する際には開いているが学校が休みの日は閉まっていた。由依は鉄の柵に手をかけグッと引っ張ったがビクともしない。どうやら重さに加え車輪留めか何かで内側から固定されてるらしい。
 こんな時にバカモノが入れば馬鹿力で開けられたかもしれない。由依は土砂降りの中、腰に手をつきため息をついた。


「由依さん?」

 雨粒が地面に叩きつける音の中をかき分けながら由依の耳に人の声らしきものが聞こえた。雨の中で立ち尽くしていたがハッとし声らしきものが聞こえた方を向く。
 目にかかった雨粒を払いながら視界をはっきりさせようとすると、途端に頭上からうっとおしい雨粒が消えた。頭上をまず確認すると黒い布が被さっていた。
 
「先生......」


 声の主は教師の斉藤祐樹であった。由依の頭上には黒い傘があり、祐樹は不思議そうな顔で由依を見つめていた。

「雨の中何してるんですか? 風邪ひきますよ」

「先生、ええところに来てくれた。雨宿りをしようと思ったんやけど入れんくて困ってたんや。マジ女開かへんの?」

「ああ、そういうことならこっちです」

 祐樹は由依に傘を手渡すと弱まる素振りが見えない雨の中へ飛び出した。小走りで向かった先は塀に取り付けられている赤い扉だった。そこで祐樹はカバンから鍵を取り出す。ドアノブに差し込むと扉が開き校内への道が出来た。

「学校に最初に来たときと最後に学校を出るときはここを使うんです。さ、早く」

 扉の中へ入っていく祐樹にホッとした由依はいつもの落ち着きを取り戻した。狭い扉を傘を狭めながら通ると見慣れた汚い校舎がモヤの中に見えた。

 
 

■筆者メッセージ
はい。お久しぶりです。
リハビリがてらなんかゆいはんの話が思い付いたので書いてみようと思います。
ツイッターの質問コーナーに沢山の質問をしていただきありがとうございました。

小説ではまだ朱里達は卒業してない設定です。朱里達が3年生に進級した梅雨の時季。としてお楽しみください。カオス3もよろしくお願いします。
ハリー ( 2019/06/07(金) 23:21 )