其の零/玲奈
05

 ホテルのベットに座った玲奈は今後のことを考えていた。朱里と自分との違いを探してしまい段々自己嫌悪に落ちていく。今日のデートは『遊び』のようだ。直視したくない現実。彼は朱里と付き合っている。それも上手くいっている。そう感じたのは帰りに寄ったグッズショップでの事。
 彼は色んな物を手に取り優しい笑顔を向けていた。きっと朱里が喜ぶものはどれだろう、と思っている。声には出していないか自分には分かる。今日何回も見た優しい笑顔。それよりも何倍も優しく柔らかな表情をしていた。

 膨れ上がった気持ちはもう元に戻すことは出来ない。むしろこれを放出しないと自分自身が破裂してしまいそうだった。こつこつと足音が聞こえる。ふと顔をを上げると、彼がもう一つのベットに座り自分と向かい合った。

「疲れちゃった?」

「うん。ここ来たの久しぶりだったから」

「玲奈さん、はしゃいでたもんね。あんな玲奈さん見たの初めてだったかも」

「そうかな? いつもと変わんなくない?」

 自分自身が人からどう見られてるかは分からないものだ。もしいつもより楽しげに見えていたのならそれは確実に祐樹のおかげだろう。玲奈はそう思った。

「というか本当に同じ部屋で良かったの?」

「別に良いよ。そんな気にすることじゃないし」

 祐樹と玲奈は同じ部屋に一泊する。旅行の計画を相談した時、祐樹は別々の部屋を取る予定だった。ただ玲奈がそれを断った。『そこまでお金かけてもらったら申し訳なくてゆっくり眠れないよ』咄嗟に出た言葉だが勿論、上辺の言い訳だった。別々の部屋になったら色んなチャンスが潰えてしまう。何となくそんな気がした。

「ねぇ先生。こっちに座ってよ」

 玲奈は自分の隣のスペースをポンポンと叩いた。

「ん? わかった」

 不思議な顔をしながらも祐樹は玲奈の隣に座った。その瞬間玲奈は指を祐樹の指と絡ませる。すると祐樹は玲奈の手の平を両手で包んだ。

「玲奈さんの指はしっとりしてるね。細くて長くて綺麗」

「ありがと」

「しっかり手入れしてるんだね。爪も綺麗」

 祐樹は自分の気持ちを知っているのだろうか。知っているとすれば弄ばれているのか。祐樹が自分の手をギュッと握ると心まで締め付けられている気がした。

「先生さ、私のことどう思ってるの?」

「玲奈さんこと? 勿論大切な生徒だよ」

 考える間もなくサラッと言われたことが玲奈を傷つける。

「......じゃあ私のこと好き?」

「うん。当たり前じゃん」


「......じゃあさ、好きなら私とエッチできる?」

「玲奈さん? うわっ......!」

 玲奈は祐樹に飛びかかりベットに押し倒した。力なら男である祐樹の方が圧倒的に有るはずだが突然の事に抵抗出来ないでいた。

「ダメだよ。落ち着いて、ね?」

「先生が、先生がいけないんだよ......彼女居るくせに、優しくするから......」

「玲奈さん泣いてるの?」

 玲奈の瞳には涙が溜まっていた。あっという間に一杯になり溢れ出した涙がポタポタと祐樹の胸部に落ちていく。

「好きなの、大好きなの......我慢してた、でも、もう、無理、なの......」

 溢れ出したものは堰をきったように止まることなく溢れ出てくる。涙で目の目に歪んで彼はどんな表情をしてるか確認できない。

「朱里みたいにエッチしたいよ......これからもこういう関係でいいから、セフレでいいから好きになって、お願い......大好き」

 玲奈はぐっと顔を近付け祐樹の唇を奪った。すると冷えていた気持ちが温かくなる。自分が大好きな彼に抱きしめられていることに気付いた


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 ここまでの出来事を思い返し罪悪感が玲奈の心を支配した。朱里とは友達で居られなくなるかもしれない。祐樹が応じてくれたとはいえ巻き込んだのは自分である。

「朱里を裏切った。とか思うの?」

「うん。デートしてる時から朱里と先生が別れてほしいって思ってた。最低だよね、私」

「でも、僕も同罪だよ? そんなに自分を責めないでほしいな」

「先生は別に良いの。優しくて人の事ほっとけないのが先生の取り柄なんだから。ダメなのはその優しさに付け込んだ私だよ」

 どうやっても自分が悪い。自分は大犯罪者だ。きっと玲奈はそんなことを考えているのだろう。
最近テレビで不倫を謝罪している女性芸能人のような玲奈の表情に祐樹はまた安易に考えていたと反省した。

朱里に頼まれてたとはいえ、どうやら玲奈は傷ついてしまったようだ。







■筆者メッセージ
僕は都合の良い展開が好きです!!
さーてプロローグは次で終わりになります
ハリー ( 2018/05/25(金) 15:44 )