03
玲奈がいくら遠慮しても祐樹は譲らなかった。『その払おうとしていた分をみんなのお土産代にでも使ってあげてください』『男としてデート代払うのは当たり前のことです』
祐樹は『デート』という言葉を使ってくれた。自分は気にして使わなかったのに。それから玲奈は旅行じゃなくデートをする気分で当日を迎えた。目一杯のおしゃれをしていこうと思ったが、祐樹の好み的にそれは正しいのか分からなかった。彼の恋人である朱里を思い浮かべる。朱里の私服はいつもラフな格好が多かった。Tシャツにスカート、冬であればパーカーばかり。恐らくそれが祐樹の好みなのだろう。化粧もいつもより薄めにしてみた。
玲奈は待ち合わせの場所に10分程早めに着く。火鍋のメンバーと待ち合わせするときには遅れてくること多かった。何故か朝からソワソワしている自分が居る。いつもより早く起きてしまったせいで身支度も早く終わり、化粧も済んだ。家を出る予定の時間までテレビでも見てようかと思ったものの、居てもたっても居られなくなりさっさと家を出てしまったのだ。待ち合わせの場所にたどり着くまでに、ガラスや鏡など自分自身の身なりを確認できそうな場所を見つけては化粧の具合や前髪を一々立ち止まっては確認してしまう。祐樹のことだから少しの乱れも気付かないかもしれないが、不安になってる自分がいた。
腕時計を確認した玲奈。祐樹はまだ来ないだろうから座って待ってよう。そう思いふと腕時計から目を前に向けた時だった。こっちに向かって歩いてくる男性の姿が見える。好きな人はどれだけ遠くにいても認識できる。紛れもなくその男性が祐樹だと分かった。
予想外のことに驚いたものの、ちゃんと来てくれた嬉しさで胸がいっぱいになった。
祐樹の方も玲奈を認識したようで笑顔で玲奈に駆け寄る。
「玲奈さんおはよ。待たせちゃった?」
「おはよ、まだ10分くらい前だよ? 早くない?」
「女性との待ち合わせは男が早めに行って待ってるのが鉄則! ってのを教えられたからね。玲奈さんこそ早いね」
「あ、うん......仕度に時間かかるかなって思ったら早く終わっちゃって」
玲奈は前髪を治す仕草をする。
「そっか。玲奈さんいつも可愛いもんね。今日も可愛いよ」
「ありがと。もう駅行こっか」
玲奈は照れてることを悟られないように祐樹を誘った。これ以上祐樹に言葉をかけられたら公の場で抱きついてしまいそうだった。いつも高飛車でものを言ってる自分がいいように踊らされている。そんな風に感じたが、そんな状態がとても心地好かった。
歩き出した玲奈に並ぶように祐樹も歩き出す。祐樹はポケットをゴソゴソ漁りスマートフォンを取り出した。その姿を見ていた玲奈はスマートフォンに繋がっているキーホルダーに見覚えがあった。赤い星型のキーホルダーは朱里も着けていたものだった。そういえば朱里は相変わらず何も言ってこなかった。もしかしたら2人の関係が上手くいっていないのか。だが玲奈にとってそれは『心配』ではなく『期待』だった。友人の恋愛が壊れることを望んでいる自分が居る。朱里と祐樹の関係が良好ならば、今回の旅行はただの女遊びで自分は誑かされていることになる。
途端に心の中で黒い雲が広がっていくのを感じた。唇をクッと噛むと、祐樹の手を引っ張る。
「歩きスマホなんかしちゃいけないよ」
「ああ、ごめん。ごめん」
玲奈は祐樹との会話をして心のモヤモヤを抑えるように努めた。会話をなるべく切らさないで彼に夢中になっていたい。悪い事はもう考えたくなかった。