06
朱里と杏奈の反応は祐樹にとっても意外だった。口調や言い方は違えど、2人の言いたいことは同じだ。
玲奈の思いに悩んでいた祐樹は申し訳なく思いながらも朱里に相談した。恋人がいる身分として悩んでること自体駄目なことである。
「あのさ、玲奈さんに泊まりの旅行に誘われたんだ」
「え、そうなんだ」
パッと目を見開いた朱里。
「断った方が良いよね」
「なんで?」
「なんでって.....恋人以外の女の子と旅行なんて行っちゃ駄目でしょ?」
正論を語ったつもりで居たが朱里は首を傾げている。予測が出来ない状況に祐樹は目線を下に落とした。
「ちょっと待ってよ。恋人じゃないからって玲奈のことほっとく気なの? ひどいよ......!」
朱里はテーブルを両手でバンッと叩いた。眉間にグッとシワが寄っている。
「いや、だって俺には朱里と杏奈が居るんだよ? そんな浮気なんて......」
「色んな女の子とエッチしてきたくせにそんなこと言うんだ。サイテー。相変わらず朱里達の気持ち分かってないね」
訳が分からなかった。自分が正しい筈なのに朱里は沸騰したように怒っている。2人を大事にしたい気持ちから相談した筈なのにどうやら裏目に出ているようだ。
「気持ちって......朱里は良いの? 俺が他の人とデートしても。嫉妬しないの」
質問に呆れたのか朱里はため息をついた。朱里は立ち上がると祐樹の目の前に座った。
「朱里はね先生のみんなに優しいところが好きなの。傷ついてる人をほっとけなくて求められると断れないところ。
なのに恋人が居るくらいで玲奈のこと傷ついたままほっとくなんて、そんなの先生じゃないよ......嫌だよ」
朱里は祐樹に身体を預けてきた。それをゆっくり包むように抱きしめた。
「嫉妬なんかしないよ。朱里と先生は一心同体だもん。先生の中に朱里が存在してるんだ。先生が他の誰かとちゅーしたりエッチしてもどんなことがあっても別れるとか考えたいことないし。でも......先生が『別れたい』なんて行ったら先生のこと殺しちゃうと思う......」
「......ごめんね朱里。別れたいなんて言わないよ。そうだね朱里が好きな俺で居なきゃね。でも本当に良いの?」
「うん。良いよ! 玲奈にエッチしたいって言われたらしてあげて。でも何があったかは必ず言ってね。それは約束」
朱里は右手の小指を立て祐樹の目の前に立てた。クラシックなやり方に懐かしさを覚え、祐樹も小指を出し絡ませた。
もう1人の恋人、杏奈にも報告しようとした。ただ杏奈は朱里に比べると根底に嫉妬深いものがあるのを知っているために中々言い出せずに居た。学校で2人きりの空間になった祐樹は杏奈の後ろ姿をじっと見た。結果的に事後報告になってしまった。玲奈は自分のクラスの生徒の為会うタイミングは玲奈の方が早い。
どう切り出したらいいか分からなくなった祐樹はとりあえず杏奈を背後から抱きしめることにした。
「......なんだ。人恋しそうに」
「別に。杏奈が可愛かったからハグしたくなっただけだよ」
「またお前は。そうやって分かりやすい嘘をつく」
祐樹は頬を、抱きしめても興味なさそうにしている杏奈の頬に擦り付けた。キメが細かい杏奈の肌はピタッと貼りつくようだった。
「嘘じゃないって」
「嘘だ。女に困ってないお前が私に対してそんなふしだらな感情が湧くわけがない」
「そんなことないよ。杏奈は自慢の彼女だって」
杏奈はため息をつく。くるっと祐樹の方を向くと猫のような目で見つめてきた。
「もう。言いたいことがあるなら早く言ってよ。祐樹がそうやって私のこと褒めてくれるのは何か言いにくくて
誤魔化してる証拠」
口調が柔らかくなった杏奈。最近は二重人格のように使い分けるようになっていた。厳しい口調は『ヨガ』優しい口調は『杏奈』ということらしい
朱里にしても杏奈にしてもなぜこうも自分のことを見透かすのだろう。
「うん、まぁ......」
「ほら。早く手を出して。どうせ祐樹のクラスの生徒の子に言い寄られたんでしょ」
祐樹が躊躇うことを分かっていた杏奈は有無を言わさず手を握った。すると頭の中に祐樹が見た景色が再生される。一通り祐樹が悩んでいる部分を通り過ぎると手を離した。
「やっぱりね。私の意見は朱里と同じだよ。女の子ほっとく祐樹なんて大っ嫌い。今すぐヨガに戻ってボコボコにするよ」
「ちょっと痛いのは勘弁してよ.....朱里もだけどさ、なんでそんなに許してくれるの?」
「んー、私も最初は朱里に嫉妬してたけど彼女としてしっかり愛情注いでくれるなら別に良いかなって。気にならなくなったんだよね」
「でもそれだと恋人って感じするかな?」
「してるよ。だから嫉妬しないのかな。それに祐樹のこと好きな女の子の気持ち良く分かるし。その気にさせたならちゃんと責任取らないとね」