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「はぁ、なんかなぁ」
「味は変わってねえはずなんだけどなぁ」
中心でグツグツと煮えている火鍋。だが箸をつける気にならなかった。椅子の上に使われていない器と箸が並べて置いてある。それを4人はじっと眺めた。
冬休みが明け、新学期初日。鉛色の空からしんしんと雪が降っている。顔馴染みの仲間達の中に朱里の姿は無かった。
「おめえらが食わねえなら食っちまうぞ。ほい南那」
赤い箸が肉団子を掴む。肉団子の行き先は南那の器の中だ。
「真子ありがと。全く心気くせえ顔しやがって」
「うるせえ。てか、なんでお前らいるんだよ」
悪態をついた南那に玲奈が反論した。南那と真子は相変わらず玲奈達の許可を得ず勝手に鍋をつついていた。反論を物ともせず、南那は肉団子を口に入れ咀嚼を始める。
「なんだよ。お前らが寂しそーにしてると思ったからこうやって可愛い後輩達が慰めてあげてんだろ。ありがたく思えよ」
「べ、別に寂しくなんかねえよ......」
真子に対し美音の声は次第に小さくなっていく。朱里が居なくてもチーム火鍋の絆は変わらない。そのはずなのだが、仲間が1人欠けているのはやはり寂しかった。
「1人居ないだけでこんなに違うとはな」
涼花が箸を加え俯向く。箸が全く進まなかった。
「あれだな。失ってから気付く仲間の大切さってやつだな」
奈月の言葉が他の3人の心に染み入ってしまった。更に寂しさが込み上げてしまい、もう食欲は無くなってしまう。プライドも何も無い。ため息が出るだけだった。
「このままだと鍋余っちまうだろう。残すのは良く無いぞ」
「うるさいな。何でお前まで食ってるんだ、カタブツ」
勝手に食べていたのは南那と真子だけではなかった。キチッと正座をして淡々と食べているのは委員長の奈々だ。奈々もまたクラスメイトが転校した寂しさからチーム火鍋に同情していた。
「お前らのこんな姿見てウオノメが喜ぶと思うか? 好きな火鍋も残すくらい落ち込んでるのを知ったらあいつに心配させてしまうだけだ」
奈々の言葉にチーム火鍋は顔を見合わせた。言っていることは正しい。朱里だって寂しいはずだ、それに朱里は1人なのだ。こっちは4人も居るのに前に進まないわけにはいかない。玲奈達は火鍋に箸を伸ばす。
黙々と食べていると、教室の扉が開いた。ふっと7人は振り向く。そこには久しぶりに見るあの教師の姿があった。
「みなさん、おはようございます。ってなんで南那さんに、真子さんも?」
この2人は同じクラスの生徒に見えて実は違う。同学年ならまだ許せるが、彼女達は1個下の学年だ。ただ追い返す理由もないのでそのままほっとくことが多かった。
「先生、おはよ! こいつらずっとメソメソしてるからウチらが慰めに来たんだよ」
南那と真子は器を置いて立ち上がり祐樹に寄って行く。真子は元気な声で挨拶をした。そんな2人から視線を逸らし後ろを眺めると確かにしょんぼりと火鍋を突ついている玲奈達が居る。まぁ、嫌でも落ち込むだろう。でも、祐樹は彼女達全員がこの後笑顔になるだろうと、確信していた。