第七章/朱里
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 人の家の匂い、生活感のある柔らかな香りは恋人の胸に飛び込んだ時と同じ匂いがした。それが密室の中に充満している。朱里はだんだん頭がぼーっとした感覚に襲われ、座っていたベッドに倒れこんだ。ベッドからは更に強い匂いを嗅ぎ取った。

「ん......」

 手がゆっくりと胸をまさぐった。いつものように自慰を始めようとしたが、ここが恋人の家ということを思い出すと動きを止めた。今日は記念の日なんだからそれまで我慢しなきゃ。
 朱里が自慰を覚えたのは祐樹が異動した時だ。寂しさに耐えられなかったのは美音だけじゃなく朱里も同じだった。学校では気丈に振る舞うも、家に帰ると部屋に閉じこもる日々が続いていた。
 
 頭の中では祐樹を思い浮かべる度に悲しみが襲い、そのうち身体がムズムズとした感覚になっていった。自慰という行為は知っていたものの定期的に行うことは今までなかったが、悲しみから来る性欲を朱里は抑えきれなかった。
 絶頂に達した時は祐樹が自分を一番愛してくれてるように感じたが、残ったものは虚無感だった。その一瞬の快楽を求める為に回数は多くなっていく。


「朱里さん、眠いの? 疲れちゃった?」

「ううん。ふわーっていう気分になってさ」

 ぼやっとした視界に祐樹が映り、朱里は身体を起こした。

「ふわーって面白いね、よいしょっと」

「だって他に表現の仕方が無いんだもん」

 隣に座った祐樹の肩に頭を乗せた。祐樹は腕を朱里の身体に腕を回す。ムチムチとした身体つきが愛おしかった。恋人という存在に触れた感触は、杏奈を抱きしめた時に似ていた。

「朱里さんのそういうとこ好きです。表現の仕方が独特だったり、仲間の為に熱いところがあったり」

「あとおっぱいが大きいところでしょ? 先生は変態だから今も朱里の身体のこと考えてる」

「そうやってムードをぶち壊すこと言わないの。せっかく朱里さんの良いところ言ったのに」

「変態は変態でしょ。女子高生とエッチなことばっかりしてきたんだから」

 クリクリと二重の目が祐樹を捉える。晴れて恋人になった後、祐樹の女性関係を全て教えてもらった。隠し事は無しの関係で居たかったからだ。人から好かれる祐樹ならある程度のことが有るとは認識していたが、その人数に驚いた。それに伴い、美音や南那、それにゆりあと仲が良い理由が判明する。そして杏奈という『恋人同然の大切な存在』も知った。
 嫉妬という感情は生まれず、むしろ人を捨てられない祐樹が格好良くすら見えた。『恋人』という関係が自分を優位に立たせているような気がするのだ。

「どうして、ヨガとはエッチしてないの?」

「うーん。大切な存在だから大事にしたいし、一番最初に決めたからかな」

 こうやって思うと杏奈との約束は不思議なものだ。なぜ守っているのかお互いに分からない部分がある。杏奈自身、セックスを嫌がっているわけでもない。最初に決めた約束ということだけで杏奈は純血のままでいる。

「むっ。じゃあ朱里は大切じゃないってことだ」

「違いますって。だったら解散して家に帰りますか?」

「......やだっ。それじゃ来た意味ないじゃん」

「正直ですね。朱里さんも大切な存在です。セックスをしてもね」

「うん。先生だから好きになったもん。先生は絶対朱里を同じくらい愛してくれるって確信してるんだ」

 朱里が家に来た理由は初めてのセックスをする為であった。自分のだらしない貞操のせいで朱里は傷ついているのではないか。全てを打ち明けた際、笑顔を絶やさない朱里を見て無理をしていると思った。そんな祐樹を見かねて、朱里は自分の処女を捧げる提案をしたのだ。そうすればプラマイゼロになるじゃん。何がプラマイゼロになるのか祐樹は分からなかったが朱里の心が満たされるならと了承したのだ。
 


■筆者メッセージ
前話の長さがすごかったですね。そんなつもりじゃなかったのですが、改めて見ると目眩がしそうです。

今日はクリスマスのようで。。
ゆりあに「どーせ、クリぼっちなんでしょ? ケーキ買ってきてやったから一緒に食べよ」
って言われたい
ハリー ( 2016/12/25(日) 22:56 )