第七章/朱里
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 1回の乗車でヘロヘロになった祐樹だが、そんな祐樹を朱里は逃さなかった、躊躇せず2回目、3回目と同じジェットコースターに乗せ同じ恐怖を与える。人が少ない今だからこそ出来る贅沢な乗り方なのだろう。
 乗り場の外に解放された祐樹はフラフラになった。まだ地面がグラグラしていた。

「あはは! 先生面白い」

「拷問ですよあんなの......」

「ただのジェットコースターだぞ」

 頭を押さえる姿が朱里にはおかしかった。あと、2、3回は続けて乗れる。朱里はまだまだ余裕だった。
体力ゲージが殆ど空になった祐樹は女子高生のパワーを感じ、自分は歳をとったものだと思った。

「さ、休憩がてら歩こうよ」

「ふう......そうですね。何があるか見たいですし」

 確かにまたすぐ別のアトラクションに乗れる気はしない。祐樹は背筋を伸ばすと朱里に並んで歩き始めた。

「時間経ったらまた乗るからね」

「えー、勘弁してくださいよ」

「何っ。女の子の言うことに反対しちゃいけないんだぞ」

「女の子って、バリバリのヤンキーじゃないですか」

「ヤンキーでも女の子だろ」

 今の朱里はヤンキーには見えない。もっと言えば普段からマジ女の生徒、特に自分のクラスの生徒は口は悪いもののヤンキーには見えなかった。強がっても内面はピュアで顔立ちが良い生徒が多いからだろうか。朱里もまん丸の顔や自分のことを『朱里』と呼んでいる姿がとても愛らしい。許されることなら頬を掴んで左右に伸ばしたい。

「朱里さんはどうしてヤンキーになったんですか?」

「ん〜。カッコイイからかな」

 ヤンキーになる大方がそんな理由なのだろう。若気の至りというか影響されやすい年頃なのだ。

「映画とか、ドラマに影響されたとか?」

「うん。朱里が小学生の頃かな。ヤンキードラマを見てさ、今を生きている姿がすっげえかっこよくてさ! それに強くなりたいって思ったんだ。強くなっていろんなものを守りたいって」

「強くなりたいかぁ。そんな風に考えた事ないかもしれません」

 自分自身喧嘩を好んだ事は一度も無い。勿論、喧嘩をして力が勝る事が強さではない。心身ともに鍛えて精神的に強くなれば、心に余裕が出来て人に優しく出来る。それが本当の強さ。出逢った当時は荒くれ者だった朱里達もそれを徐々に理解し始めている。

「先生はオタクっぽいよね。よくウチらなんかを好んで相手するよな」

「好んで、というかそれが仕事ですから」

「でも大変だろ? 朱里達、真面目に授業も聞かないし......遊んでばっかだから」

 ふっと朱里を見るとしょんぼりと下を向いていた。祐樹としては彼女達の素行は気にしていなかった。まさか、朱里が申し訳なく思っていたなんて。

「そんなことないですよ。むしろ、皆さんは青春時代を楽しんでいる姿が自分にはキラキラ見えて、羨ましいです。遊べるのは今だけですからね」

「......ホントに?」

「本当ですよ。朱里さん達は少なからず僕の前だけはそのままで居てほしいです。でもあっちの学校に行ってからはみんなが居なくなるのでちゃんとした方がいいかもしれませんけどね」

「優しいなぁ、バカみたいに優しくするから好きになっちゃうんだよ......」

「へっ? 何て言いました?」

「なんでもないよ。バーカ」

 何か重大なことを聞き逃したようだが、朱里の元気は戻ったようだ。その姿に安心して目線を前に戻すと、そこには季節外れの幽霊屋敷が建っていた。すると祐樹の頭にサディスティックな計画が組み上がる。

「朱里さん、お化け屋敷行きましょうよ」

「お、お化け屋敷? いくら何でも季節外れじゃないか」

 木造建ての物騒な小屋が見えた途端朱里の目が大きく見開き、微かだが声が上ずった。そんな朱里の腕を掴み催促する。

「さっきは朱里さんの乗りたいものに乗ったんですから、次は僕の番です」

「い、いや、まぁ落ち着けよ、せ、先生......あ! そうだ! 朱里、お化け屋敷アレルギーなんだよ」

 案の定だ。朱里は怖いものが苦手らしい。さっきの仕返しの意味も込めてここは強引に行った。

「あー。怖いんでしょ?」

「は?! そんなわけがないだろ! こう見えて火鍋のリーダー、そして次にはラッパッパになるのだ!」

「じゃあ行きましょ」

「も、もちろん」

 

 声を高らかに上げた朱里の腕を引っ張り幽霊屋敷へと歩みを進めた。入場料を払い、おどろおどろしい扉を開いた。
 支給された懐中電灯の明かりと、ポツポツと今にも切れる寸前の電球の明かりだけで中は目を凝らさないと分からないほど薄暗かった。

「先生、歩くの速いよ......」

 やはり怖がりだった朱里は祐樹の腕にガッシリしがみ付き、周りをキョロキョロ見ている。歩幅もかなり狭い。
怖がっている姿、そして朱里の身体の感触に多少の興奮を覚えた祐樹は暗い道を進んだ。
 
 その時、どこからか女性の悲鳴が聞こえた。それがスピーカーからの音で演出と祐樹は気付いたが、朱里は身体をビクッと動かした。

「きゃあ!」

 そして2人の後ろから何かが迫ってくる音が聞こえる。朱里は暗闇をじっと見つめていると、そこから血まみれの女性が走って追っかけてきたのだ。

「いやあああああああああああ!」

 ホラー映画ばりの朱里の叫び声は外に聞こえるほどの大きさで木霊した。
 




 

■筆者メッセージ
昨日に続いての更新です。2日に1話だと15話あげるのに1ヶ月もかかってしまいますからね。完結する前に春が来てしまいます。まぁダラダラ書いている自分がいけないんですがね。
そういえば感想メッセージに英語の文面が......殺伐としているので消します笑
ハリー ( 2016/12/17(土) 17:57 )