07
「ふふーん」
「朱里さん楽しそうですね」
「そりゃそうじゃん遊園地だぞ! 先生ももっと楽しそうにしなよ」
鼻歌を奏でながら朱里は周りを見渡していた。何から乗ろうか考えるところから楽しみは始まっているのだろう。こちらとしては楽しそうな彼女を見てるだけで胸がいっぱいになる。祐樹自身、遊園地に来るのは小学生以来のことだ。親に連れてきてもらい、一日中走り回っていたのを今でも覚えている。そんな純粋な気持ちは中学辺りでどこかに落としてしまったが、朱里は今も持ち合わせているようだ。
「せっかく遊園地に来たんですからね。さて、何から遊ぶんですか」
「そうだなぁ〜、やっぱりジェットコースターだな」
ビシッとジェットコースターのレーンに向かって指をさす。轟音とともに乗り物が通り過ぎた。
「初っ端からですか......」
「あったりまえだ。今日は3回は乗るぞ!」
好きな乗り物には繰り返し乗る。ワンデーパスの料金分の元を取る勢いでこの園内を駆け回り時間いっぱいまで乗りまくる。それが朱里の楽しみ方である。
顔がしもやけになりそうだ。朱里は肌荒れとかを気にしないのか。祐樹は手袋をつけた手で自らの頬を包んだ。逆にそういうことを気にせず全力で遊ぶ女性が祐樹には好感が持てた。
それに祐樹は絶叫系の乗り物が得意ではない。耐性が無いのだ。出来ることなら乗ってる朱里を下の方で眺めていたい。
「んっ先生も乗るんだからな」
否定的な気持ちを見透かされたのか朱里は祐樹の腕をグッと掴み、睨んだ。朱里の顔には少しだけゆりあに殴られた時の痣が残っていた。やはり逃れることは出来ないようだ。それに可愛い女性に誘われて断るのは無粋にも程がある。
ジェットコースター乗り場に行くと、朱里の言った通り、待ち時間無しで乗り込むことができた。その分、心の準備が形成されず機体を見た途端身体がそわそわし始める。
「やっぱり乗るんですか?」
「ここまで来て引き返すなんて男じゃないよ」
祐樹は一つため息をつくと、朱里の隣に座った。朱里は相変わらず目をキラキラさせている。
もう余計なことを考えるのを辞めよう。けたたましい発射音が鳴り機体がガタンと動いた。
「よーし! 行くぞー!」
「ひいっ」
どんどんスピードが上がっていき、震えが止まらず朱里に助けを求めようとしたが彼女は前を真っ直ぐ見つめている。
目の前には急勾配のレーンが迫っている。祐樹はグッと目をつむり覚悟を決めるのだった