07
事件は少し前に遡る。授業が終わった後、チーム火鍋はすぐに帰らず学校の外でたむろしていた。5人で目的も無くウロウロしながら雑談するのはよくあることであった。道路の横の草を踏むとパリパリと音がなった
「さっみぃな。そんなに足出して寒くねえのか」
「寒くても足を出すとな。綺麗な足になるんだよ」
「そうなのか? あかぎれにでもなりそうだけど」
乾燥し冷んやりした空気の中で腕を組みブルブルと震える朱里は隣で歩いている玲奈のスカートから剥き出しの太ももを指摘した。火鍋の中では一番美容というものに気を使っている玲奈だが今の玲奈はやせ我慢してるようにしか見えなかった。
「クソガキ。寒くない?」
「私はジャージの下にスパッツ履いているから大丈夫だよ。あーあ私らももう直ぐ3年か。来年はラッパッパに入れるかなぁ」
美音と手を繋いでいる涼花が呟く。3年生になれば順番的にもラッパッパへの加入が近づく。だが問題はいろいろあった。
「難しいんじゃねえか? 今のラッパッパは全員留年するって言うから枠は減らねえし、ケンカが少なくなった今では入るための基準が曖昧になってるからな」
「まぁ化け物のソルトを除いて4人しか居ないから、四天王って呼ばれてるだけだからな。人数はあまり関係無いかもしれない」
奈月と朱里の言葉に他の3人は表情が曇る。世代交代とか次世代と言われても、そう簡単にチャンスは巡ってこない。自分たちも留年でもしなければラッパッパの優越感を味わうことは出来ないかもしれなかった。
「ねぇ、あんた達」
チーム火鍋が歩いていた道が突然塞る。横からマジックこと木崎ゆりあが現れたからだ。その表情はチーム火鍋を見下しているようで笑っていた。朱里達は驚き動揺した。
「マ、マジックさん。どうしたんですか」
「ん〜、ちょっとさ私今すごーく機嫌が悪くてムシャクシャしてんの。だからさ......ケンカしようよ」
笑っては居るが、ゆりあの圧倒的な狂気のオーラが見えていた
マジックはラッパッパで一番ヤバイ奴。それを知っている。だからこそ心が恐怖で支配され動けなくなる。ゆりあは少しずつ5人に近づいた。
「い、いやウチらはマジックさんの、あ、相手になんかなれないですよ......もっと強い奴と戦った方が......ぐっ」
「何言ってんの? 弱〜い奴をボッコボコにするから気持ちいいんじゃん? でしょ?」
「ぐがっ!!!」
「ウオノメ!」
ゆりあが朱里の胸ぐらを掴むと鉄拳が朱里の顔を直撃し、横に大きく吹っ飛んだ。地面をゴロゴロ転がるとその場にうずくまった。その姿を見た玲奈達は覚悟を決めて拳を構える。やられる前にやるしかない。
「やるしかねえってか......いくぞお前ら!」
「おう......!」
玲奈の言葉に美音、涼花、奈月は応えた。ウオノメの仇を取るんだ。奇妙な笑いを見せるゆりあに飛びかかろうとするために地面をぐっと踏みしめ、走り出そうとした。その時だ。
「ダメだ! お前ら......!」
倒れている朱里の言葉で4人は動きが止まった、朱里は強い目つきで自分たちを睨んでいる。何かを伝えようとしているのだ。
朱里は首を振る。『手を出すな』4人はそれを察した。
「ウオノメ......でも......」
「何、かかってこないの? ビビっちゃったの? ははは!」
ゆりあが素早いスピードで玲奈に襲いかかる。玲奈は攻撃を防御に徹し耐えるも素早いキックが腹部を直撃し吹っ飛ばされた。美音、涼花、奈月も1分と持たずやられてしまった。
「つまんないだけど? 私のことバカにしてるの?」
ゆりあの足元にうずくまっている美音の胸ぐらを掴み持ち上げる。拳を構え、振りかざそうとした。美音は目を瞑った。
「うああああああああああ!!」
大声と共に朱里がタックルをかました。押し込まれたゆりあと朱里は倒れる。だがほとんどダメージは無く、朱里を鬱陶しく感じたゆりあは立ち上がると、数発顔を殴りつけた。朱里を捨てるように投げつけると再びゆりあは倒れている美音達へ近づいた。ゆりあの鬱憤は少しも晴れては居なかった。むしろ生ぬるい戦闘で尚更ストレスが溜まっていた。
すると、後ろから腰に血まみれの朱里が巻きついた。また邪魔をされたイライラが頂点に達し、振り向きざまにキックをかました。それだけで収まらないゆりあうずくまっている朱里を何度も蹴りつけた。
「あんたさ、ウザイんだけど。なんなの、なんなの」
「ウオノメ......」
何度も蹴りつけられ苦悶の表情の朱里。だが火鍋のメンバーは助ける力も残っていなかった。無情にも響く蹴りつけている音。それを5人はただひたすら耐えているのみだった。