01
秋。夏の蒸し暑さは無くなり、上着を一枚羽織らないと風邪をひいてしまうような気温になった。
祐樹はこの季節の変わり目があまり好きではない。大雑把な性格故、毎年この時期になると風邪をひくことが多いからだ。
暖かくなると出会い季節と言うが、逆に寒くなれば別れの季節なのだろうか。祐樹は学生時代に付き合っていた彼女のことを思い出したが、別れを切り出された時期は寒くはなかったように感じた。それほど関係ないのかもしれない。
だが、こんな傷心に染み入るような秋風が吹く時期に別れを告げられるのは酷かもしれない。確か自殺者がやたら増える時期とも言うがそういうことも関係しているのかも。
「先生ー、また明日ねー!」
窓から外を眺めていた祐樹は後ろから聞こえた元気な声に振り向いた。
「みなさん、また明日」
手を振る美音や朱里に祐樹も手を振り、教室から出て行く彼女達を眺めた。美音は涼花の手を引っ張り、ひっぱられた涼花は転びそうになっている。
彼女達に悩みや傷心は無いように見える。冬になると鍋が美味しくなるとともに、チーム火鍋は生気が増している気がしていた。元気なのは良いことだ。
元気と言えば、矢場久根の彩希もバイトを始めたという連絡が来た。手軽に始められるコンビニのアルバイトに就いたが、やはり苦労することが多く毎日が戦争状態らしい。それでも本人は『なにくそ』と言う気持ちで挑み続けている。
そして彩希は妊娠の兆候が出なかったことも祐樹に知らせた。隠れての資金援助を覚悟して、彩希が高校を卒業した後には結婚を考えていた祐樹は胸を撫で下ろす。彩希は『先生の赤ちゃん欲しかったのに』と冗談なのか本気なのか分からないことを言っていた。
何はともあれ、自分の周りには心配するような事柄を持った生徒は居ないようだ。祐樹は出席簿をパラパラめくった後、それを他の荷物と一緒に抱え誰も居なくなった教室から出て行った。
「おい」
心を細い針でスッと刺すような冷たい声に祐樹の足は止まった。急に人の気配を感じ振り向くと杏奈が廊下の壁に寄りかかって立っていた。
「なんだ、杏奈さんか......」
「なんだ、とはなんだ。私で悪かったか」
「そういうことじゃなくて、急に現れないでくださいよ。心臓に悪いです」
「別に良いだろう。それに人を幽霊みたいに言うな」
おそらく杏奈は普通に話しかけることが恥ずかしいのだろう。だからそれを誤魔化して格好つけたような登場をするのだ。
幽霊のような白い肌をしている杏奈はゆっくり祐樹に近づいた。彼女と会うのは久しぶりである。夏休みにデートをし将来の恋人の約束をした以来だ。
「すいません。それでどうしたんですか?」
「ああ。お前にちょっと相談があってな」
「相談、ですか?」
「とりあえずこっちに来てくれ」
杏奈は祐樹の手を引っ張り、出たばかりの教室に誘った。人に聞かれたくない話なのだろうか。
誰も居ない教室に二人きりというシチュエーションに胸が高鳴りながら杏奈の後を付いていった。