第五章/彩希
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 彩希に両親は居ない。彩希が幼い頃に突然行方を晦まし、それっきりだった。それからは歳の離れた兄が親代わりで、朝から晩まで働き詰めで彩希の学費や生活費を賄っていた。
 そんな生活が続き、彩希はヤンキーになりながらも高校生になった。ヤンキーになったのは彩希の兄の影響だ。彩希の兄は中学のときからヤンキーだったが良識も常識もあり周りの人間からも慕われていたという。今は長距離トラックの運転手でその影響から家に帰ることが少ない。月に1、2回程だ。
 それでも毎月の給料はかかさず彩希に渡してくれる。兄の給料が月いくらなのかは知らなかったが多分全額に近い金額を納めてくれているのだろうと彩希は予測していた。たまに小遣いとして万札を兄に渡そうとしても、受け取らなかった。寧ろ、彩希が好きに使っていいよと必ず押し返した。

 申し訳なかった。兄は休み無く働くがそれは兄自身の為ではなく彩希の為に稼いでいるのに自分は何もしていない。高校生になってからというものの、一人で居る寂しさも相俟ってかそんなことばかり考える様になっていた。だが頭が悪い自分にできる仕事など存在しない。コンビニのレジ打ちさえ、難解な作業に見える。自分は兄に頼らないと何も出来ないのか。
 諦めかけていたそのとき、彩希は家でネットを眺めていると風俗嬢の勧誘を見つけた。危ない仕事という恐怖心もあったが兄を少しでも楽にしてあげたい、その気持ちの方が強かった。しかし、すぐに障壁が生じた。彩希は高校生になったばかり。勧誘サイトには当たり前だが年齢制限が書かれていた。『高校生は不可』無論、彩希も出来ないことは分かっていたが、とてももどかしさが生まれていた。身元は隠せない。じゃあどうすればいいのだろう。その風俗のサイトをスクロールし打開策を探した。
 1時間程、ネットを彷徨っていると出会い系掲示板に辿り着く。おそらく作っただけでほったらかされているだけの掲示板だが、一ヶ月に1回程のペースで書き込みがあった。ただ単に性的関係を求めるだけの書き込みばかりで本気で出会いを求める様には見えなかった。

 もし、返信したらどうなるのだろう?彩希は淡い期待が生まれていた。肉体関係まで及んだらそれは援助交際というものだが金銭は手に入るかもしれない。
 これなら身元も隠せるし自分にも出来る。そう思った彩希は一番最近に書き込まれたコメントに返信をした。それに対して返事があったのは3日後のことだった。






ーーー


「あの、もういいです……」

 彩希にとって話の佳境にまだ辿り着いていないが、項垂れている教師を見て話すのを辞めた。

「えー、まだ何もしてないよ」

「どうせするんでしょ……」

 重たい顔を上げて、反抗するように彩希を目で制した。これ以上聞いたらしばらくはショックで立ち直れないだろう。自分の心の弱さを実感した。

「先生って、純粋だね」

 どこか新鮮味を感じていた。まだ祐樹と出会って数十分しか経ってないが優しさに惹かれている自分が居る。そして自分がどれだけ汚れているかも分かってしまう。

 



■筆者メッセージ
なぁちゃんはゆいりーに敬語で話してるんだそうです。随分イメージが変わります。恋人というより、「心友」というのがよくわかりますね
文字数の割に短いなぁ。

RYOさん
正攻法で救うのか、それとも……
ゆうさん
ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです〜
ハリー ( 2016/08/26(金) 23:22 )