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「どれにしよっかな」
24時間営業ではあるが、店内は閑散としていた。遠く離れた席に男性の客がコーヒーを飲んでいるだけで他の客は居ない。だがそのおかげ人の目を気にせずに居られる。決して如何わしい関係では無いが夜に女子高生とファミレスに居るのはやはり抵抗があった。
「好きな物でいいですよ」
「そう言っても高い物頼んだら怒るだろ。それとも先公は意外と金持ちとか?」
大きなメニュー表を眺めている彩希は目が輝いていた。教師の給料は安定しているがそれほど高くはない。彩希の言葉に祐樹は後頭部を掻いた。
「まぁでもある程度のものなら大丈夫ですよ」
「わかった〜」
フワッとした喋り方で返したあと彩希はメニュー表に目を戻した。パラパラと捲っていく。
結果的に彩希が頼んだのはレギュラーサイズのパフェだった。メインに甘いものやデザート系で腹を満たす感覚が前々から祐樹には分からなかった。
そう言えば杏奈は甘いものが嫌いだった。デートをしたときも塩辛いパスタを食べていた。自分と感覚が似ているのかもしれないが、一般的な女子にとっては当たり前なのだろうか。そう思いながら祐樹はオムライスを頼んだ。祐樹の好物だった。
品物を頼んだ後は沈黙が続いた。自分を含めた最近の若者と言えばスマートフォンを弄くるのが鉄板だが彩希はそういう素振りを見せない。爪を眺めながら、パフェが来るのを楽しみにしているようだった。
そんな楽しげな表情を壊すのは心苦しかったが聞けるのはこのタイミングしかなかった。
「ねぇ村山さん」
「ん? なに?」
祐樹は一旦間を開け、話し続ける
「今日……どうしてコンビニ居たの?」
一瞬で気まずそうな表情を浮かべた彩希は俯き、目を逸らした。やはり聞かれたくないことだったようだ。
「やっぱり気になるよね」
「すいません。わざわざ聞くこともないかなって思ったんですがね」
「ううん。先生が謝ること無いよ。私が悪いんだからさ……」
罪悪感が彩希の中には生まれているのか。その姿に祐樹は少し安堵していた。なんの躊躇もなくやっているわけではなさそうだ。
「先生が想像した通りだと思う。私、身体、売ってるんだ」
心をナイフで突かれているような痛みが襲う。
「……今日も?」
「うん。待ち合わせしてたんだけど、バックレられたんだ。たまに居るんだビビって来なかったり、待ち合わせまでしといて連絡取れなくなったり」
この時点で祐樹の心は軽く傷ついていた。この先の話に耐えられる気がしない。
「何度もしてるの?」
「……数えきれないかも。おじさんばーっかり」
彩希の昔の思い出を話しているかのように遠い目をしていた。
悲しさ、寂しさ。そして諦め。その目から悲壮感すら伝わっていた。