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「ああ……」
身体は鉛のように重かった。床を這いつくばりながらベッドに上がると仰向けになる。
村山彩希にパンチを食らった後、痛みでその場に踞っていたがこんなことで負けるわけにはいかなかった。
腹部を抑えながらゆっくり立ち上がると、フラフラになりながらも自宅までなんとか辿り着いたのだった。
頭の中では彩希のことをずっと考えている。何人もの男に身体を捧げているのだろうか。彩希はマジ女の生徒と同等のとても可愛らしい顔立ちをしている。そんな可愛く生意気な顔が喘ぎ声を出すならば男を誘惑するのも簡単かもしれない。
まずい所を見られた。あの時の彩希はそんな目で自分を見ていた。危ないことをしているのは間違いないだろう。こういう時はどうすればいいのか。説得してどうなるものではない。だからといって警察に相談するのも気が引ける。なぜ援助交際を始めたのか、彼女なりの理由があるはずだ。警察に行くのはそれを聞いてからでも遅くない。
そう思うとチーム火鍋やクラスの生徒達はある意味純粋だった。屈託の無い笑顔は本物でその彼女達の笑顔を見る度に癒されている。
急にマジ女の生徒達が恋しくなった。ちゃんと授業を受けているだろうか。ケンカに巻き込まれていないだろうか。祐樹は重い身体を起こし、スマートフォンを手に取った。勤務中はほとんど使う事が無いので電源は切ったままだ。
企業名がぼんやりと画面に映り、数秒経つと賑やかな待ち受け画面が表示される。マジ女で教鞭を振るった最後の日、祐樹がチーム火鍋のメンバーになったあとその場に居た全員で写真を撮った。ずっと泣いていた美音も涙で顔がグシャグシャになりながらも笑顔を見せている。
その待ち受け画面をぼーっと見つめていたが、LINEの通知は一件も来ていないことに気付いた。
異動してから数日立つが、彼女達からのメッセージは送られて来た事がない。おそらく、気遣ってくれているのだろうと思ったが、あまりにも寂しいものだった。
だからと言ってこちらからメッセージを送るのは情けないことだろう。美音のページを開いた所でグッとこらえた。『便りが無いのは良い便り』それを心の中で復唱すると祐樹はスマートフォンを投げ捨てた。
ーー
今日も残業だった。外はもう真っ暗、キャッチ達は準備運動を始めているのだろう。また話しかけられるのか。祐樹は腹部をさすり、うんざりしながら学校を出た。
彩希に殴られてから丸1日経つが鈍痛はまだ腹部に残っていた。前日に比べれば大分痛みは引いているが授業を行う際に邪魔でしょうがなかった。
加害者である彩希は姿を見せていない。学校には来ているのだろうが、きっとどこかでたむろしているのだ。だが会った所で気まずい空気になるのは間違いなかった。それを考えれば居なくて良かったのかもしれない。
通りにあるコンビニで晩ご飯を買うと駅に向かって歩き出す。今のところ、厄介なキャッチに話しかけられていない。今日は運が良いな。そうそう悪い事は続かないものだ。自然と歩みが速くなり、ズンズンと進んで行った。