第五章/彩希
08
 秋も近くなり、夕方は少しだけ日が短くなっていた。だがまだまだ半袖で充分な気温だ。
急遽だった為か放課後に集合したのは発端の美音に言い出しっぺの朱里、そして玲奈の3人だけだった。
奈月と涼花は『前々から言ってくれれば行けたんだけどな』と言い、口を尖らせ帰って行った。用事が入っていたらしい。南那と真子も同様だった。

 真剣に計画を練っている朱里と美音を見て玲奈は再び大きく溜め息をつく。本当は行きたくないのだが、朱里と美音が暴走したときに止められるのは玲奈しか居なかった。それに美音が言った『隠し事』最初は馬鹿にしていたが、時間が経つにつれ玲奈も気になり出していた。

 校庭の端にある倉庫の陰から3人は学校の昇降口を見張った。教師も生徒も一律であの昇降口から出入りする。
祐樹が出てくるまでの間朱里は頭に描いている計画を話し始めた。

「先生が出て来たら、ドドブスがまず先頭行ってくれ。その後ろからウチらが付いて行く」

「はぁ!? なんで私が先頭なんだよ!」

「だってドドブスが一番立端がデカイだろ? 万が一見つかってもウチらが目立たない」

 美音が手を上げ、表現する。身長から言えば玲奈が2人より大きかった。

「じゃあ私はどうなるんだ!」

「まぁそのときはそのときだ」


 
 自分を犠牲にするような計画を立てた2人の頭を玲奈は思い切り叩いた。
 それから1時間が経つ。代わる代わる交代しながら昇降口を見張るが見知らぬ顔が出てくるだけで祐樹は現れなかった。辺りも薄暗くなって来たからか、後ろで座っていた玲奈は思わず欠伸が出た。

「どうすんだ。暗くなったら先生かどうか分からなくなるぞ」

「分かってるよ。うーん、先生って残業とかするのかな」

 じっと玄関を凝視していた美音は首をかしげる。こんなことになるなら祐樹の仕事状況を聞いておくべきだった。自分が聞けば祐樹はなんの疑いもなく教えてくれただろう。いや、もしかしたら教えてくれないのかもしれない。なぜなら祐樹は『隠し事』をするような人間だからだ。
 美音の中で祐樹が『隠し事』をしているのはもう確定事項だった。感じた違和感は他の人間も共通だろうと思っていたが、どうやら感じていたのは自分だけのようだった。

「ジセダイ、お前はなんでそんなに先生に拘るんだ?」

 美音の背中に朱里が問いかけた。壁に手をかけながら美音は振り向く。

「……お前らは気になんねえのかよ」

「そういうわけじゃねえけどさ。先生だって1人の人間だし、悩みや私たちに言えない事くらいあると思うぞ」

 そう言われてしまうと何も言えない。美音は俯く。淡い恋心、それだけが理由だ。初めて甘えた異性なのだから気になってしまうのは必然だった。

「気になるから気になるんだもん」

「なんだその理由。小学生みたいだな」

 もっと深い理由があるのかと思っていた玲奈は男子小学生のような言い訳に拍子抜けをした。もっともチーム火鍋はそんな人間の集まりでもあるのだが。

「文句があるんだったら帰れよ! ウチだけでやるから」

 美音は声を荒らげ、再び監視を続けた。
素直じゃないな。朱里と玲奈は顔を見合わせそう思った。気になる理由はなんとなく分かっている。分かっているからこそ、それをはっきり言わない美音が可笑しかった。

 先生のこと好きなくせに。
 
 玲奈も朱里も祐樹に対して好意はあった。だが、美音はあからさまに態度に出ている。本人は気付いていないようだが。
 さてこれからどうしようか。美音の必死な後ろ姿を見て朱里は腕を組んだ、このままじゃ真っ暗になってしまう。

 そのときだった。美音が大きな声を上げた。

「あ! 先生だ!」
 

 


 



■筆者メッセージ
なんかめちゃくちゃ長くなっています。イメージは15話くらいかなって思ってたんですが、25話くらい行きそうなペースです。
先日は感謝祭が行われましたね。撮影OK時間もあったようでメンバーを思う存分堪能出来て神イベントだったようですね。来年あるなら来年行きたいなって思います。

RYOさん
めぐちゃんもリクエストが多いですね。そのうち書けたらいいですね。
ハリー ( 2016/08/09(火) 11:29 )