05
それから数日、何をしても憂鬱だった。そうそう良い事は続かない。マジ女で出来たからってあっちで出来るとは限らない。なによりクラスの生徒達と離れるというのが堪え難いことだった。
もしかしたらもう会えなくなるのかもしれない。その可能性があるのに、まだクラスの生徒達には伝えられずいた。
「おいっ、先生」
耳元で聞こえた声に祐樹はハッとする。横を見ると、美音がプリントの束を持って立っていた。
「あぁ美音さん。ありがとうございます」
美音はプリントを机に置く。さっきの授業で使ったものだが、回収して職員室に持ってくる様にと祐樹は美音に指示していた。
「なんか先生最近、元気無いね」
「えっそうですか? いつも通りだと思いますよ」
思わず顔をさする。祐樹としてはいつもと変わらなく過ごしている筈だった。美音に悟られてはいけないと笑顔を作り、目を逸らした。
「先生、隠し事してる」
その細めた目は心の動揺を見抜いている。やはり女性はそう言う事に敏感なのだろうか。それともいつものように顔に出ているのだろうか。
「美音さんに隠す事なんてないですって」
「あのさ、先生と付き合ってもう2ヶ月なんだから。隠し事は無しって2人で決めただろ」
付き合って2ヶ月。そうかもうそんなに経つのか。だが記憶を辿っているうちに、一線は超えたものの恋人同士になった覚えは無いことを思い出す。だが美音は本気の目で自分を見ていた。
「ちょっと待ってください。僕らいつの間に恋人になったんですか」
「覚えてないなんて酷い。夏休み前に先生が授業中、寝言で『大好きだよ』って言ってくれたもん」
ここまで聞くと美音の言っていることが作り話ということが分かった。自分は授業中寝ていたことはない。
「美音さん。嘘はいけませんよ」
「……嘘じゃないもん」
美音の指が落ち着き無く動いている。心理学によれば慣れない事をするときにはどこかしらに癖が出てくるらしい。
この教師のことだから勢いでそういう風になれるのではないか。さらっと言えばなんとかなると思ったが咄嗟に作った話はすぐバレてしまった。大人と高校生が付き合うのは危ない橋だというが、じゃあこの感情を抑えるにはどうしたらいいのだろう。美音はあのときの祐樹の温もりを忘れられずにいた。
「先生のバカ。だからモテねえんだよ」
「またそれですか。僕は美音さんに信頼されているだけで充分嬉しいですよ?」
「そうやって女誑かして、先生なんか誑かした女に殺されればいいもん」
杏奈や奈々が武器でも持って襲いにくるのだろうか。想像しただけでゾクっとするが、もし自分で自分自身の終焉を選択出来るなら、彼女達に殺されるのも悪くないかもしれない。
「もういい。帰る」
「美音さん」
美音は頬を膨らまし、立ち去ろうとする。だがその美音の手を祐樹は掴んだ。
「な、なんだよ」
「プリントありがとね」
「……うん」
掴んだ手の力を緩めると美音の指はスルッと抜けて行く。驚いた表情を見せていた美音は小走りで職員室から出て行った。自分が出来る事はこれが精一杯だった。