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あのとき、やはり禁忌を侵すべきではなかったのだろう。だとすれば今の状況は自業自得である。
補修の時間もあと15分程のときだった。突然校内放送で職員室に呼び出しがあった。祐樹は仕方なく奈々に朱里達を任せ、教室を飛び出す。
なんだろう。放課後で校内放送を使うくらいなのだから急な用事でも有るのだろうか。早歩きで薄汚い廊下を渡っていく。だが祐樹は嫌な予感がしていた。杏奈のときの様に3年生の相手か。もしかしたら島崎遥香をなんとかしてくれと頼まれるかもしれない。
自分に任されるのはそういったことばかりだ。可能性の無い話じゃない。そうだ、たまには断る事も必要だ。自分のネガティブな部分に無理矢理蓋を閉めるとズンズンと足音を立て廊下を歩いた。
職員室の扉をガラガラと開ける。それに気付き手招きをしたのは3年生の主任教師だ。呼び出したのもこの男らしい。祐樹の閉まっていた心の蓋が再び開いた。なぜなら、3年生の面談を祐樹に取り付けたのはこの主任教師だからだ。遂に嫌な予感が現実味を帯びてきた。一歩一歩近づくごとに足取りが重くなる。
作り笑いまさに丸顔の主任教師はそんな表情だった。祐樹はそれに対し無表情を保った。頼まれたら断ろう。心にはそう決めた。
男が開口一番、矢場久根商業高校って知ってる?と問いかけた。変な名前だ、と祐樹は思ったが、教師生活が始まる前に馬路須加女学園を調べた際、近くにそんな名前の学校があったことを思い出す。
あの隣町の学校ですよね?ウチに負けず劣らずな。祐樹はそう答えた。男は、うんそうだね。と頷くと続けて喋り出した。
その矢場久根商の先生が病気の為に欠員が出てしまってねえ、元々人手の足りない学校だったし。そこまで聞いた途端、祐樹は話のオチが読めた。
『そこで君に白羽の矢が立ったんだ』
頭の中でそう復唱した言葉。ほぼ同時に男の口から出てくるのだった。
今度は別のヤンキー高校に臨時で異動か。美音達から離れてたまるものか。祐樹は抵抗をする。
男は口角をさらにあげて喋り出す。君はウチの荒くれ者のヤンキーの生徒とも仲が良いじゃないか。教育委員会の評判も良くて、今回は教育委員会からのお達しなのだよ。
つまりは決定事項ということだ。祐樹に断る術は無かった。
一番の心配事はこの学園に戻れるかと言う事だ。その質問に対して男は『多分』と答えた。話によれば、とりあえず二週間程の期間になるそうだが、療養中の教師は現場復帰をあまり望んでいないという。
祐樹の評判は良かった。なぜならヤンキーと分かり合えているからだ。矢場久根商業高校が祐樹をそのまま置いておきたいというのが本心なのだ。
もちろん、職場復帰させる努力をあっちの先生達や我々で最大限協力するつもりだ。君という人材を失うのは惜しいからねえ。でも君ならどこでもやって行けるよ。
男は祐樹の肩をポンと叩く。その手を払いたくなったがそれをぐっと抑えた。