03
人生の終わりはこんな感じなのだろうか。生徒の下腹部を触って捕まる。人間としての人生はそこで終わりだ。生徒に誘われたなんて言っても、誰も信じてはくれない。そのうえ、誘われたからといって素直に手を出す教師の方が悪い。刑期が終わって外に出ようとも自分を見る目は冷ややかだ。ああ、悔いの多い人生だった……
「先生? 大丈夫? おーい」
耳に入るひょうきんな声。質素な刑務所生活を想像していた祐樹はその声で現実に引き戻される。顔の前で玲奈は手を振っていた。卑猥なことを実行しようとした左手は掴まれたままだ。
「どうしたの? 急にぼーっとしちゃって」
「いや、警察に通報するんですよね……?」
「え、なに言ってんだ?」
玲奈は首を傾げ、悲哀に溢れた祐樹を見た。
「だって今逮捕って」
「ああ、冗談だよ! 冗談に決まってるだろ。からかっただけ」
ケタケタと笑い出す玲奈を見て、緊張が解ける。額からは一気に汗が吹き出た。冗談にしては笑えない、もっともそんな罠に簡単にかかってしまう自分自身が一番悪いのだが。
「止めてくださいよ……ホント」
「先公のくせに鵜呑みにするが悪いんだろ。エロい手付きで撫で回しやがって。そこは計算外だった」
玲奈の描いていた予想では祐樹はすぐにスカートに手をかけると思っていた。その予想は外れ、玲奈は太ももを撫で回される。初めての感覚に玲奈は少し興奮していた。
「多分だけど初めてじゃないだろ?」
「ま、まさか」
「白状しなさーい。ちゃんと言ったら続きさせてあげよっかなぁ」
「え……?」
心が揺らいだ祐樹は玲奈の顔を見た。玲奈は再びニンマリと笑みを浮かべる。
続きということは秘境を探索しても良いということか。だったら…….
「ばーか。何、本気にしてんの? へんたーい」
また騙された。だが今度は騙されるのを楽しんでいる自分が居る。
「もう。玲奈さんにそんなこと言われたら誰だってそうなりますってば」
「確かにねー。ま、先生誑かすのも楽しみだから。さっきのはご褒美ってことで」
ヘラヘラと笑う玲奈。自分の容姿に自信があるタイプなのだろう。もしや玲奈こそ卑猥な経験は初めてではないかもしれない。
「ご褒美ですか。ありがとうございます」
「ありがたく受けとるがよい。さて、ここ教えて」
細長い指が差した先は英文が載っていた。祐樹は愛想笑いをするとさっきよりも密着するように玲奈に近付く。
「懲りてないな。こいつ」
玲奈が耳元でボソッと呟く。
罠に嵌ったわけではあったが、その成り行きで玲奈の身体を堪能出来たのは幸運だったかもしれない。
これは前向きに捉えよう。
禁忌を侵せば天罰が待っているかもしれないが、それはそのときで考えれば良い。教師になってから数ヶ月、自分の変態性に磨きがかかった気がしていた。