05
「あたたっ……」
奈々はむくっと身体を起こし、頭をさすった。脚立から身体が離れたとき思わず恐怖で目をつぶってしまったが、どうやら自分は生きているようだ。落ちる瞬間に床ではなく多少柔らかいものに当たった気がするがなんだったんだろう。歪んでいた視界が徐々に治ってくる。それと同時に自分が何故助かったかも分かった。
「……てっ、先生!」
自分が仰向けに倒れた祐樹の上に座っていたことに気付く。そうか、先生が下敷きになってくれてたんだ。奈々は祐樹の身体を揺さぶった。
「そんな……おい! 先生!」
何も反応が無い。まさか頭でも打ち付けて死んでしまったのか?そんな、私の為に……
奈々は胸がキュッと締まった。
「ん……んん」
奈々の目から涙が溢れようとしたとき、かすかに呻き声が聴こえた。奈々はハッとして再び身体を揺さぶった。
「先生……! 先生!」
「んっ、……あっ岡田さん……大丈夫でしたか?」
重い瞼をゆっくり開けた祐樹。目に入ったのは悲愴感がたっぷりの奈々の姿だった。ガクンと奈々は力が抜けたようになる。
「良かった……。死んだかと思った」
「大丈夫です。こんなことで人間は死にませんよ」
奈々が上に乗っている為に上手く動けないが、五体満足、骨も異常なしのようだ。身体に力を入れ、上半身を起こそうとしたとき祐樹はある事に気付いた。奈々は祐樹の下腹部当たりで馬乗りになっているが、その辺りからじんわりと熱が伝わって来ていた。
そして奈々の小さな尻の柔らかい感触が服越しに伝わっている。
「ん? 先生どうした? どこか痛むのか」
じっと自分を見ている事を不審がったのか、奈々の視線に気付いた。だが、尻の感触を味わっていることには気付いていないようだ。
「あ、いや大丈夫ですよ。岡田さん、避けてくれませんか」
「そうだった、すまん」
良からぬ事を考える前に奈々を退かさなければ。ムニュムニュとした感触が下腹部から無くなると、祐樹は立ち上がった。ホコリを落とす様にパンパンと服を叩く。
「奈々さん身体は大丈夫ですか? 少し休みます? 」
「大丈夫だよ。さっさと終わらそうぜ」
奈々はニッと笑みを浮かべると、周りに落ちた本を拾い集めた。
あれが若さか。そんな奈々を見ながら祐樹は身体を伸ばす。すると腰の当たりにじんわりと痛みが出て来ていた。