18
杏奈の髪は想像していた通りサラサラだった。指に髪を絡めてもスルッと間を抜けて行く。雨で濡れたのか、多少湿っていた。
「綺麗な髪ですね」
「よく言われる」
ふわっと香る匂いは香水ではなく杏奈自身の香りのようだ。さっきまでの距離は無く、杏奈と祐樹は密着している。祐樹は右手を杏奈の首に回し、頭を撫でていた。杏奈も身を任せる様に寄りかかってくる。
例えるなら、心を許した高級なシャム猫と言ったところか。
「変な気分だ……。心が高揚しているというか、熱い」
言葉通り、杏奈の頬は赤みを帯びて熱を持っていた。性的興奮に近いものになっているのか。祐樹は杏奈の頬を触りながら美音のことを思い出した。
「大丈夫ですか?」
気遣うだけで精一杯だった。不純な行為を繰り返しているというのに女性の扱いには一向に慣れない。祐樹の心も杏奈以上に高揚していた。また女生徒とそういう関係になってしまうのか。
「ふふ。お前は今、この後のことを悩んでいるな」
杏奈は微笑みながら見上げた。その表情に祐樹は狼狽えた。そうだ、杏奈は心が読めるんだ。
「言っておくがこんなの心を覗かなくともお前の表情を見れば誰でも分かる」
「あっ、いや……」
恐らく下心も丸出しだったのだろう。祐樹は杏奈から手を離し目を逸らした。
「すいません、考えてました……」
「まっ、男なんてそんなものだろう。別になんとも思わない」
どうやら一枚も二枚も杏奈の方が上手のようだ。それでもそんな杏奈の魅力に増々引き込まれている自分が居た。
美音と南那、杏奈の違いはなんなのだろう。年齢は1つ2つしか変わらないのに感じるものがまるで違った。
「ちょっと立ち上がれ」
「え? あ、はい……」
痺れを切らしていた杏奈は冷たく言い放つ。杏奈はジッと見つめると休憩所の柱に祐樹を押した。そして寄りかかる様に祐樹を抱きしめた。
「ん……」
杏奈は祐樹の背中に腕を回し、顔を埋める。杏奈の吐息が身体に当たった。細身の身体には程よい柔らかさがあった。
「入山さんはどうなりたいんですか」
「それを女に訊くのか」
「だって……」
くっと杏奈が祐樹を見上げる。多少イライラしているように見えた
「教師のくせに優柔不断なんだな」
「教師だって人間ですから」
もっともらしいことを言うが、しないならさっさと帰り支度をすればいい。それが出来ないのは杏奈を受け入れたいという汚い心が原因だろう。祐樹は身体がムズムズしていた。背中にある手で杏奈の身体を撫で回したい。
「一つ訊くが、私が他の男に身体を捧げても良いというのか?」
「それは……! 嫌です……」
杏奈を強く抱きしめる。そんなことを想像をするだけで胸が痛む。だからこそ杏奈から離れられなかった。ただそれはチーム火鍋に加え、南那と真子に対しても同じだった。
自分はなんて最低な人間なのだろう。結局身体目当てではないか。
「私は何も言わない。ここで身体を
弄ろうとも、唇を奪おうとしてもな」
顔を見つめながら、杏奈の背中にある祐樹の両手がゆっくりと尻の方へ下がって行く。スカートを掴むと震えながら捲っていった。
スカートの中に冷たい空気が吹き込むのを感じた杏奈も目を閉じ、祐樹にしがみついた。
が、祐樹の動きは止まった。
「……入山さん。やっぱり無理です」
祐樹は杏奈を引き離す。2人の間にフッと冷たい風が吹き込んだ。