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杏奈の言葉で、空を見上げた祐樹は驚く。今にも雨が降りそうなどんよりとした空模様だった。下ばかり見ていた為かいつの間にか閑散とした住宅街にまで歩いていた。木々が並び、人通りもまばらになっていた。
バサッという音が横から聞こえ、祐樹が杏奈を見ると杏奈は大きな黒い傘をかぶっていた。その途端に大粒の雨が空から降ってくる。
「マジかよ……」
杏奈の予言は当たった。もしかしたら杏奈が雨雲を呼び寄せたのかも知れない。そんな嫌味なことを考えてる内にも祐樹の服はどんどん濡れていく。
「だから言っただろう。言うことを訊いた方が身の為だと」
「まさか、そんな的確に当たるなんて思いませんでしたよ」
それ見たことかとニヤッと笑みを浮かべる杏奈は祐樹を嘲笑した。この辺にコンビニは見当たらない。さっき傘を買っておけば良かった。雨粒がとても鬱陶しく感じる。
「何をしている。そのままじゃ、ずぶ濡れになってしまう」
「ですね。でも雨宿り出来る場所も無さそうですし……」
祐樹は周りを見渡す。周りにあるのは住宅だけで気軽に入れる場所も無いようだ。
「私の傘に入れば良いじゃないか」
「えっ?」
杏奈の方を向くと杏奈は傘を差し出し不思議そうな顔で祐樹を見つめている。確かに傘は大きめだった。
「そのままじゃ風邪引いてしまうだろう。早く」
「は、はい」
祐樹は言われるがまま、傘の中に入った。杏奈と身体が触れ合わない様に気を使うが、ほぼ密着している。ある意味眼中に無い存在だから相合い傘なんていうことも逆に出来てしまうのかもしれない。南那が前、『危なくなったらボコボコにすればいい』と言ったことを思い出す。杏奈も同じだろう。祐樹はそう思うことにした。
杏奈は何も言わず再び歩き始める。祐樹も歩幅を合わせ、濡れた道路の上を歩いた。雨のせいで多少肌寒くなった気がする。雨で濡れた身体を持っていたハンカチで拭きながらさすった。
まばらになっていた人通りも雨が降ったせいで見当たらなくなっていた。たまに祐樹達の横を車が数台通り過ぎるだけだ。初めての相合傘。どこか緊張している自分が居る。気を使えど身体は触れてしまう。祐樹はわざとらしく外を見回した。
「なぁ」
ぼそっと発した声。祐樹は杏奈を見るが杏奈は無表情のままだ。
「ん? なんですか?」
「手を繋がないか?」
「……え?」
降り続く雨の中、呆気に取られた祐樹はその場に立ち止まる。祐樹の頭上からは傘が無くなり、再び身体に雨粒が打ち付けられた。