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『まとまりがない』それは美音も奈月も言っていたことだった。祐樹は水の入ったコップを傾ける。
「みなさん、個性が強いですよね」
「今に始まったことではない。歴代の四天王達は私たちと比べ物にならないくらい曲者だった」
それは厄介な。祐樹は心の中で呟く。そういえばみなみもそれなりに曲者だった。
「あの、みなみさんって知ってます?」
「みなみ? 高橋みなみか?」
杏奈の目が一瞬大きく開いた。卒業生となれば名前くらいは知っているのか。
「そうですね。卒業生の」
「知ってるもなにも、学園内で特に私たちの世代では語り継がれている。『総監督のみなみ』といえば有名な話だ」
「そ、総監督? それは今で言う島崎さんみたいな立ち位置ですか」
工事現場を思い浮かべるような肩書きに祐樹は首をかしげた。
「いや、違う。みなみさんはケンカは強かったが、ラッパッパには所属していなかった。だがみなみさんの統率力は見事なものだったらしい。ラッパッパからも雑魚からも慕われていたんだ」
祐樹がみなみと初めて会ったときに抱いた印象は間違っていなかった。母親のような包容力は今も昔も変わっていないようだ。
「なんだ、みなみさんと知り合いなのか?」
「知り合いというか、みなみさんは町で定食屋を営んでいるんです。そこによく通っていて」
「そうだったのか。知らなかった。あとで挨拶に行かなければな」
杏奈は飲み物を飲みながら足を組んだ。するとスカートが少しめくれて太ももが剥き出しになった。その姿に祐樹は一瞬だけ視線を送ったが、バレた時のことを考えすぐ視線を戻した。太ももに視線を送った際にテーブルに立てかけられた黒い傘が目に入った。
「そういえば、どうして傘を持ってるんですか?」
「ああ、今日はこれから雨が降るからな」
「え、雨ですか? 今日は降らないですよ」
祐樹は窓から見える雲一つない青空を見つめた。