07
「あ、あの……大和田さん、でしたっけ、大丈夫ですか?」
祐樹は地面にへたり込み泣いていた南那に話しかける。
祐樹は仕事が終わり人通りが全く無くなっていた商店街を歩いていた。すると、見覚えのある女の子が地面に座って泣いていた。ゆっくり近づくにつれ南那だということが分かると祐樹は驚き、恐る恐る南那に話しかけたのだった。
赤いジャンバーを着た生徒が小嶋真子という名前だったから、緑のジャンバーの方は確か大和田南那だ。祐樹は朱里達から言われたことを思い出す。
南那は涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげた。瞳から溢れた涙で目の前にいる男の顔がぼやける。それでもあのときにケンカの邪魔をしてきた教師だと分かった。だが南那は祐樹を睨み付ける気力もなかった。
「大和田さん立てますか?」
祐樹は手を差し出した。空が暗くなっている中、女の子が一人で道端に座り込んでいるのは不自然である上に危険だ。祐樹の手を軽く掴む。それと同時に祐樹は手を引っ張り南那は立ち上がった。
これからどうしようか。祐樹は考える。普通だったらこのまま家に帰した方が良いのだろう。しかし、恐らくこの生徒は大きな悩みを抱えている。お節介かもしれないがほっとくわけにはいかなかった。とりあえずどこか落ち着ける場所に……
そう考えたとき、この近くにマジ女OGがやっている店があるのを祐樹は思い出した。
ーー
「いやあ、助かりましたよ。みなみさん」
「うるせえ。閉店間際に来やがって」
定食屋『亜粗美菜』の店主みなみは不貞腐れた様に祐樹を見た。
店の閉店まで後10分程というときだった。客も居なくなり店を閉めてしまおう、そうみなみが思ったとき、常連である教師が店に入って来た。問題を抱えてそうな女の子と一緒に。
「ったく。後輩を連れて来なきゃ追い返してたよ。南那っつったけ? ほらお茶でも飲みな」
みなみは南那の目の前に湯のみに入ったお茶を置いた。湯のみからは湯気が立っている。
「……ありがとうございます」
「んじゃ私は食器洗ってるから」
文句が止まらないみなみだが、なんだかんだ言って困っている人間をほっとけないことを祐樹は知っていた。祐樹はその優しさに感謝している。
ずっと俯いていた南那は湯のみを両手で持つとお茶を口に含んだ。南那の目は真っ赤に腫れている。
「少しは落ち着きましたか?」
「うん」
南那はふうっと息を吐く。
「良かった。あの、話せる範囲で良いんで何があったか教えてくれませんか?」
厨房から食器が擦れる音、水が勢いよく流れる音が聞こえた。みなみが食器洗いを始めたのだろう。南那は少し俯いた後、重い口を開いた。