02
---家に帰っても就職先探しでパソコンを眺めていることが多く、徹夜も度々していた。李奈の我儘を聞いてあげたいその一心から適したものを毎晩探し続けている。もう探し尽くしているのかもしれない。そうは思っても辞めることは出来ない。ふっと画面の左下にある時計が目に入る。もう午前3時を過ぎていた。
身体を伸ばしながら大きな欠伸をする。すると背後から物音が聞こえた。
「んん......また徹夜してるの?」
「うん。起こしちゃった?」
朱里はベットから起き上がると上着を羽織り目を擦りながら祐樹の隣に座った。
「先生、身体壊しちゃうよ」
「大丈夫。こんなんで壊れたら教師なんてやってらんないから」
「朱里は心配なの。毎日毎日徹夜してさ。そんなに忙しいの?」
「......まあね」
不安そうな表情を浮かべる朱里。彼女に心配をかけたくない。そういう思いから今までも仕事内容については伏せていた。『大丈夫』『気にしないで』そうやって躱していた。
「あ、これバカモノじゃん」
朱里は机にあった書類を手に取る。ふてくされたような表情をした李奈の顔写真が貼ってあり、李奈の個人情報であろう内容が事細かく書いてあった。
「先生またラッパッパに関わってんの?」
「そんなところかな。川栄さんの就職先を探してるんだけど中々見つからなくてね」
朱里の顔を見て緊張が緩んだのか、途端に眠気が襲ってきた。祐樹は口元を押さえ欠伸をする。
「就職かぁ、考えたことないなぁ。先生は朱里に働いてほしいって思うの?」
卒業後の事はそのうちなんとかなる。今が楽しければそれでいい、という楽観的な考えの元に生きているのが朱里だけに限らずマジ女の生徒だ。
「朱里が働きたいなら、その時はサポートするかな。でも家で家事をしてくれるだけで俺は嬉しいよ?」
朱里の頭をポンポンと撫でる。そのまま頬のあたりを触った。
「そっか。まず社会に出てもやってける気がしないや」
不器用な自分の働く姿が全く浮かばなかった。ただ祐樹を支える為なら一歩踏み出せるような気がしていた。だとしてもどこだったら働けそうだろうか?考えを巡らせると朱里は『あっ』と声を出す
「あ、でもあそこなら朱里でも働けそう」
「あそこって?」
「みなみさんのとこ。なんだっけ店の名前? 亜粗美菜だっけ」
懐かしいフレーズでありながら、一番身近なフレーズ。その言葉は黒煙の世界に一筋の光が差したようだった。
「亜粗美菜......そうだ! その手があったか!!」
身体の内側から溢れ出る興奮を抑えられず、夜中に祐樹は大声で喜んだ。灯台下暗しとはこういうことを言うのだろう。こんなに近くにあったのに気付かないなんて。
祐樹はここしばらく彼女の店には訪れていなかった。就職先探しで忙しく、学校と家の行き来がほとんどだった。それに先に学校から帰った朱里が夕飯を作って待っているからだ。
興奮に促されるまま叫んだ祐樹に朱里は驚き目を丸くした。
「亜粗美菜に決まらなくても、みなみさんならきっと知恵を貸してくれるだろうし! さすが朱里! さすが丸顔!」
祐樹は両手で恋人の頬を包み、揉むように動かした。まんまるで柔らかい朱里の頬は祐樹の癒しでもあった。
「こ、こら! 丸顔は関係ないだろぉ」
抵抗する朱里だったがその表情は照れていた。