第八章
04


俺は空を見上げて思った


木崎という少女に出会ったこと

松井とファーストキスをしたこと

向田さんに惹かれていたこと




もし一人としか出会っていなかったらきっと俺は純粋に恋をしてこんなに悩んだりする必要はなかったはずだ

でも運命は残酷だ

三人とも俺は出会ってしまった


そして今

その一人との関係を絶たなくてはいけない








「最後に一つお願い聞いて…」

暫くの沈黙を破り木崎が口を開いた




「最後くらい家族以外の人から『ゆりあ』って呼ばれたいな」




彼女の最後の願いだった









「ゆりあ……『ありがとう』」


俺は口づけを交わし彼女の約束を叶えた


お礼の言葉と共に…










「ありがと…じゃあもう私帰るよ」



「待って!」


俺は別れを告げた木崎を必死で呼び止めた



「俺も最後のお願い…これ…持っててくれないかな…」


そう言って俺は金属のリングを渡した



年末に雑貨屋で買ったのはこのリング





「ペアリングみたいなものなんだ…せめてこれだけでも持っててくれないか?」


木崎は長い間俺の手のひらを見つめていた











不意に奪い取るようにして走っていった




まさに一瞬の出来事




俺はその場から動けなかった
















「ありがとう…大事にするね」












微かにそう聞こえた























■筆者メッセージ
絶賛スランプです

そろそろ展開が動きます
BBQ ( 2013/10/13(日) 01:02 )