第三十二話
七「すみません、来月もまたお世話になるのに…。」
母「気にしないでちょうだい。七瀬ちゃんならいつでもウェルカムよ。奈々未と違って控え目なところも高評価よ。」
奈「どういう意味?それ。」
母「ふふふ、そのままの意味よ。」
響「…姉ちゃんと母さん、よく似てると思うけど…。」
母「なあに響?」
響「あ、イヤなんでも。ほら、ちゃんと前見て運転してよ。」
母が運転する車が僕ら3人を乗せ、旭川駅に向かう。
昨日、時間にして10分ほどで僕から離れた七瀬。
七「…今日は色々ありがとう。」
響「ううん、こっちこそ。話聞いてもらって少し楽になった。」
少し頬が赤い七瀬が僕の顔を見ながらこう言った。
七「ななは響のそばにおるから。ななは響のずっとずっと味方やから。」
そう言ってくれた七瀬を思わず抱きしめてしまった。
七「あ…。」
七瀬の反応を聞いて慌てて身体を離す。
響「あの、ゴメン。」
謝罪すると、彼女は優しい笑顔を見せながら立ち上がり、
七「…少しは響の特別になれたんかな?ななもう寝るな、おやすみ。」
響「あ、うん。おやすみ。」
母「じゃあ響と七瀬ちゃんはまた来月ね。あと奈々未、教員採用試験の結果出たらすぐ連絡しなさいよ。」
奈「うん。後はまあ神のみぞ知るってやつでしょ。」
響「姉ちゃんなら大丈夫でしょ。むしろダメなら僕も来年が不安になる。」
七「うん。ななみんでダメならななは100%落ちるわ。」
奈「まあ自信はあるけどね。」
札幌に到着して、七瀬に話しかける。
響「七瀬、晩ご飯家で食べて行かない?僕が作るから。姉ちゃんもいい?」
奈「私は構わないわよ。じゃあカレーが食べたいな。」
七「ホンマにええの?」
響「うん。」
七「じゃあお邪魔します。」
奈「このところなぁちゃんと随分一緒に居たがるわね。何かあったの?」
七「………。」
響「…別に何も。さてと、買い物して帰ろうか。」
奈「ふぅ〜ん。」
七「なな、そろそろ家に帰るな。」
響「そう。じゃあ送るよ。」
七「そんなんええよ。」
奈「なぁちゃん送ってもらいなさい。荷物もあるし、使えるものは使わなきゃ。」
七「…じゃあお願いします。」
七瀬の家に向かう途中、七瀬が口を開く。
七「ここ最近、響にお世話になりっぱなしやな。」
響「そんな事ないよ。どちらかと言うと僕が七瀬に依存してる。」
七「え?」
響「…みなみとの事があっても塞ぎ込んだり、荒れたりしてないのは七瀬がそばにいてくれてるから。」
そう言うと、僕の顔をジッと見つめる七瀬。
響「何?」
七「昨日言うたやろ?ななは響の味方やって。…でも響の1番はやっぱりみなみちゃんなんやな。」
響「……そうなのかな?」
七「そうやって。…まあ今はそれでもええ。でもみなみちゃんには悪いけど、もう遠慮せんから。」
響「七瀬。」
七「今日はありがとう。」
そう言うと、僕の頬にキスをした七瀬。
顔を赤らめ、
七「…またな。」
そう言って家に入って行く七瀬。
頬に残る柔らかい感触。
その場に立ち尽くしていると、ポケットの中のスマホが着信を告げる。
響「飛鳥?」
電話に出ると、
飛『あ、響?』
響「うん、どうしたの飛鳥?」
飛『実はね、今札幌に帰って来たんだけど実家に鍵忘れて家に入れないんだ。で、』
響「そう、じゃあ今迎えに行くよ。今日は僕の家に泊まりな。家の前にいる?」
飛『うん。ありがとう響、じゃあ待ってる。』
響「後3分位で着くから待ってて。」
そう言って電話を切り、飛鳥の家に向かう。
奈「今度は飛鳥連れて来たの?」
響「鍵忘れたんだって。」
飛「今度は、って誰連れて来てたの?」
奈「なぁちゃん。」
飛「…また七瀬?」
思い切り不満そうな顔を向ける飛鳥。
響「余計な事言わない。飛鳥お風呂入るでしょ?用意してくる。寝る場所は姉ちゃんの部屋でいいよね。後で布団も出しておくから。」
飛「え〜、響のベッドで一緒がいいんだけど。」
奈「それなら飛鳥が私のベッドで寝なさい。私が響と一緒に寝るから。」
響「どちらとも一緒に寝ません。」
飛「…響、鍵掛けてる。」
奈「…ちっ。用心深い子だわね。」
響「…こんな事だろうと思った。」