飛鳥の場合
飛「…お腹空いた…。」
夕方までバイトだったあたしは、疲れて何もする気が起きずにいた。
何か食べる物あったかな…そう思いながら冷蔵庫を開けたものの特に何も入っていない。
今から作る気力もないし、何だか人恋しい気もしてきた。
飛「…響のご飯食べたいなあ…。」
そう口に出してハッとする。
そうだ響に頼もう。それならまさに一石二鳥だ。
そう思ってすぐにスマホを取り出し、LINEを送る事にした。
『忙しい?』
『お腹が空いて動けない』
『ご飯食べさせて』
『響の作ったご飯が食べたいよ』
あまり可愛らしさのない文章だが、今はそれ
どころじゃない。
まあ、いつもの事だし。
後はきっと心配してくれて『仕方ないな、何が食べたい?迎え行こうか?』とか返事くれるに違いない。
返事を待つ間、昔の事を思い出す。
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響が3年生の夏に札幌の高校に進学すると聞いて同じ学校に行きたい、そう思った。
でも響が行く学校のランクはA、入試も最低250点は必要なのであたしの頭ではひっくり返っても無理だった。
さらに両親からは、『大学に行きたいなら高校は家から通える所で』と言われてしまった。
せめて大学は響と同じ所に行きたい、そう思ったあたしは響に、
『将来何になりたいの?大学はどこに行くつもり?』と正直に聞いた。
響は穏やかな表情でこう答えた。
『教師になりたい。目標は◯◯大だね。そう思ったのは半分は飛鳥のおかげだよ。飛鳥に勉強教えるようになって、飛鳥が凄く一生懸命頑張ってたから。そんな子の力になりたい、そばで応援してあげたい。そんな職業は教師かなって思って。』
自分が響の人生に影響を与えられた事が嬉しくて、顔がにやけてしまい響に笑われたのは懐かしい思い出。
あたし自身も響への恩返しというか、仕事のことで分かり合う事ができる教師を目指そう、そう決めた中2の夏だった。
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飛「返事来ない…。飛鳥ちゃんがお腹を空かせて待ってるのに響は何してるんだよー。」
待てど暮らせど連絡はなく、仕方ないのでトボトボとコンビニに向かい夕食を買ってきた。
明日は絶対会いに行こう、そう心に決めて1人寂しくご飯を食べた。
飛「…美味しくない…。」
いつも食べているはずなのに今日は美味しくないと感じる。
響の作るご飯も、響と食べるご飯もあんなに美味しいのは、大好きな響といるからだと改めて思った。
飛「やっぱり諦められないや…。」
こぼれ落ちそうになる涙を上を向いて抑え、響への想いを一段と強くした夜だった…。