第二十七話
響「…頭がぼーっとする。」
母「久しぶりに帰って来て見せる顔がそれ?まったく何夜更かししてやってたの?」
響「特に何もしてない。」
奈「おはよう。」
母「あら奈々未は随分すっきりした顔ね。…まさかあんた達いかがわしい事してた訳じゃないわよね?」
ジト目で僕らを見る母に、
響「いたしません。」
奈「この子ヘタレだからね。据え膳食わぬは男の恥って知らないのかしら。」
母「お願いだからそういうのは親の目が届かない所でしてちょうだい。それなら仕方ないから。」
響「親が何てこと言ってるの。姉ちゃんもやめなさい。やっぱり父さんにお願いして小さい部屋でいいから別々に…、」
奈「絶対ダメ!」
母「ま、仲良くやってちょうだい。ご飯出来てるわよ。」
ご飯を食べた後僕は再び眠りにつき、起きたのは昼過ぎだった。
もちろん鍵はかけておきましたよ。
姉の侵入を防ぐために。
起きて部屋を出ると姉がウルウルした瞳で僕を見ながら『姉の事信じてないのね…。』と言っていたので、仕方なく頭を撫でてあげました。
…間違っても『その通り』とは言えませんでした。
その後久しぶりに帰って来た地元で散歩をと思って外に出ると、スマホが鳴る。
響「塁?もしもし?」
塁『よう、もう実家にいるだろ?』
響『うん。昨日帰って来た。』
塁『明日、朔北中剣道部OBOG会やるぞ。当時のメンバー全員いるらしくてな、夜7時からシゲさんの居酒屋で。来れるだろ?』
響『大丈夫、出れるよ。』
塁『ああ、嫁や彼女も同伴OKだってさ。澪も未央奈連れて来るってよ。みなみはいるのか?』
響『明日帰ってくるから聞いてみる。塁は玲香連れて来てるの?』
塁『いや、玲香は家族旅行で海外に行ってるから。』
響『まあ、ちはるや日奈子もいるならその方が平和かな?』
塁『ご心配痛み入るな。じゃあまた明日。』
響『うん、また明日。』
電話を切ると、丁度飛鳥の実家の前だった。
すると飛鳥が息を切らして外に出て来る。
響「やあ飛鳥。どうしたのそんなに息を切らして?」
飛「響、明日の夜出るの?」
響「もちろん。みんなに会うの久しぶりだし楽しみにしてる。」
飛「そっか。で、今どこに行くの?」
響「ん?ただの散歩。ついでだから中学校まで行って来ようかなと思ってるけど。」
飛「中学校?」
響「来月教育実習でまた来るし、今野先生に色々お世話になったから挨拶しておきたいし。」
飛「じゃああたしも行っていい?」
響「別にいいけど。」
学校に向かって歩き出す僕達。
するとさりげなく、僕と腕を組む飛鳥。
響「飛鳥さん何をしてるんですか?」
飛「別にいいじゃん。」
響「小さい街なんだからすぐ噂になるでしょ?明後日みなみとデートするから変な目で見られたくないからダメ。」
飛「何だよー。昨日はデートしてくれたのにさ。」
すっと腕を抜きながら言うと、口を尖らせて文句を言う飛鳥。
響「ダメなものはダメです。飛鳥ももう大人なんだから分別をつけてね。」
飛「ちぇっ。響のバーカ。」
響「そういう言葉使わない。」
頭をポンポンしながら言うと、『仕方ないな』なんて言いながらも少し機嫌が良くなったようだ。
中学校に着き、早速職員室に向かう。
響「失礼します。」
飛「失礼します。」
今「おう、橋本に齋藤か。顔を見るのは久しぶりだな。」
響「ご無沙汰してます。」
飛「先生も元気そうですね。」
今「お前達若いモンにはまだまだ負けんぞ。」
響「流石ですね。そうだ、深、いえ奥さんとお子さんは元気ですか?」
飛「あーまいまい先生にあたしも会いたいです。」
今「…明日の会に連れて行く。子どももな。若月が絶対連れて来いとうるさくてな。」
響「へえ、佑美ちゃんが。それは楽しみにしてます。」
実は僕らが卒業してすぐ、今野先生と深川先生は結婚された。ちなみに3歳になるお嬢さんがいて、聞くところによると流石の今野先生もお嬢さんと聖母にはデレデレらしい。
今「…まあそれは置いておいて、来月の実習の件、しっかり頼むぞ。」
響「はい、よろしくお願いします。」
今「それから西野さんだったか、一緒に実習に入る子は。」
飛「えっ?」
響「はい。17日に本人もこちらに来て学校に挨拶に来ると言っていますので、僕も一緒に顔を出します。」
今「わかった。その時は校長、教頭にも面会できるように調整しておく。」
響「よろしくお願いします。じゃあ今日はこれで失礼します。先生また明日。」
今「おう。齋藤もまた明日な。」
飛「…はい。」
職員室を出てすぐに玄関に向かうと、飛鳥が服の袖を引く。
飛「ねえ、どういうこと?」
響「何が?」
飛「七瀬のことに決まってるじゃん。」
響「実習先が決まらなくて困ってたから今野先生に頼んで朔北中で実習できるようにしてもらっただけだよ。」
飛「一緒に実習入るんでしょ?」
響「うん。」
飛「………。」
口を尖らせ不満を露わにしている飛鳥。
響「飛鳥がどんな想像してるか知らないけど、僕は教師になるためにやるべき事をしっかりやろうと思ってる。それに友達が困っていて助けないなんて出来ないし、それが七瀬だっただけだよ。その事自体にやましい事なんて何もないから。」
そう言って外に出る。
いつもより強い口調になっていた自分を心の中で反省する。
振り返ると飛鳥が俯いて立っていたので、
響「…帰らないの?」
飛「………。」
響「せっかく久しぶりにトメさんのアイス食べに行こうと思っ『行く』…ほら行こう。」
もちろん僕の奢りでした。アイスを食べながら、
飛「…なんかいいな七瀬。響といっぱい一緒にいられて。」
響「昨日から飛鳥とは随分一緒にいると思うけど?そろそろみなみに怒られそうだな、僕。」
飛「ケンカしてしまえ、そして別れてしまえ〜。」
そう言った飛鳥の頬を抓る僕。
飛「ひぃひぃきいひゃい。」
響「そんな事言う飛鳥にお仕置き。次そんな事言ったらもう一緒に遊ばないからね。」
そう言うと、
飛「ごふぇんなふぁい。」
そんな飛鳥に思わず吹き出してしまい、すぐに強烈な毒を吐かれてしまった。