第十六話
8月始めのある日、僕は最早ルーティーンと化しているみなみの店にいた。
響「今日は何にしよう…。」
パンを眺めながら思案していると、
み「迷ってるの〜?」
と声をかけてくれたみなみ。
響「うん。あ、みなみが焼いたパンはどれ?今日はそれにしようかな。」
み「今日は食パンだけど、それでいいの?」
響「そうなんだ〜。じゃあ明日の朝食べるのにハーフの買っていくよ。後はたまにメロンパンでも食べようかな。」
そう言ってメロンパンを2個トレイに乗せると、
み「じゃあお会計するね〜。」
と言って、僕からトレイとトングを受け取り歩き出す。
会計をしながらみなみと会話を交わす。
み「今日はバイト?」
響「うん。」
み「そっか〜。バイト頑張ってね。」
響「ありがとう、みなみも仕事頑張って。じゃあ行くね。」
み「うん。ありがとうございました〜。」
店の外に出て時計を見ると、時間まであと30分しかなかったので足早に向かった。
友梨奈ちゃんの家に着き、インターホンを鳴らす。
すぐにお母さんがドアを開け顔を出した。
平母「橋本先生ご苦労様です。今日もよろしくお願いします。」
響「こんにちは。こちらこそよろしくお願いします。」
階段を上りながらお母さんと話をする。
平母「先生のおかげで友梨奈の成績も上がりました。1学期の通知表を見て家族みんなで大喜びしましたよ。」
響「いや友梨奈ちゃんが頑張ったからですよ。僕は少しお手伝いしただけです。」
平母「あの橋本先生、今日はぜひ夕食食べて行ってください。実は友梨奈も色々先生と話したいらしくて、『お母さんからもお願いして』って強く言われているんです。」
響「…そうですか。本当によろしいんでしょうか?」
平母「もちろんです。私も腕によりをかけて用意しますから。」
響「わかりました。それではお世話になります。」
そんな話をしながら、友梨奈ちゃんの部屋のドアをノックする。
友「はーい。」
響「橋本です。友梨奈ちゃん入るね。」
友「どうぞ〜。先生こんにちは〜。」
響「こんにちは。今日もよろしくね。」
平母「橋本先生、ご飯食べて行ってくれる事になったわ。」
友「本当ですか?」
眩しいくらいの笑顔で僕の方を見る友梨奈ちゃん。
響「うん。何だか申し訳ないけどご馳走になることにしたよ。」
友「嬉しいです〜。お母さん美味しいご飯お願いね。」
平母「分かってるわよ。それでは橋本先生お願いします。」
響「はい。じゃあ友梨奈ちゃんさっそく始めようか。」
友「はい!今日はやる気がみなぎってます!」
そんな様子に苦笑いを浮かべてしまったが、確かにいつもに増して素晴らしい集中力だ。
サクサクと問題を解いていく友梨奈ちゃんに、思わず感嘆の声が出てしまった。
響「おお、すごい。」
友「ん、どうしました先生?」
響「いや、これなら道コンも期待できそうだね。力も付いてきたし、集中力も素晴らしいよ。」
友「ありがとうございます。…あの、いつものやってもらえませんか?」
響「いつもの?」
友「頭ポンポンするやつです。」
少し甘えたような上目遣いで僕を見る友梨奈ちゃん。
響「分かったよ。よく出来ました。」
そう言いながら頭をポンポンすると、柔らかい笑みを浮かべる。
響「じゃあ、この問題解いたら1回休憩しようか。」
友「はい、すぐに解きますから。」
そう言うと本当にあっという間に解いてしまった友梨奈ちゃん。
響「うん、合ってるよ。それじゃあ休憩ね。」
友「はーい。…私ちょっと頑張り過ぎたみたいで疲れました〜。」
伸びをして、椅子の背もたれに背中を預ける友梨奈ちゃん。
響「はいお疲れ様。そうだ、友梨奈ちゃんこれ食べる?」
友「何ですか?」
みなみの店で買ったメロンパンを取り出す。
響「疲れた時には甘いものが1番。」
友「いいんですか?でも、一個は多いので半分こしましょう。」
響「じゃあそうしようか。」
メロンパンをちぎって渡すとさっそく食べてくれた友梨奈ちゃん。
友「すごく美味しいです。」
響「良かった。実は僕の彼女が働いてる店のパンなんだ。良かったら今度行ってみて。」
そう言うと、何故か口を尖らせた友梨奈ちゃん。
その後の時間は不機嫌で口数が減ることになったが、理由がさっぱりわからない僕だった。