少年少女の体験談

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少年少女の体験談
僕達モザイク
僕たち男子の羞恥心はこれまで、

同年代の女子より不当に軽く扱われてきました。

しかしそれが社会的な問題となり、ついに

僕たちの味方となるべく新しい法律が誕生したのです。


「乳首が見えてる時点ですでにNGよ」

「えーっ、」

「男のくせに!?」

「信じらんなーい」



「これっ、この問題に男子も女子もありません。

 とにかく男子の上半身も女子のそれと同じです。」



事の発端は、ある学校で同学年の女子たちによる

男子の更衣室やシャワー室覗き見事件があったのです。

なかでも問題だったのは、女子の更衣室やシャワー室に

比べ、構造がチャチで、あちこちの隙間から覗くことが

できる状態になっていたことでした。



そのことがマスメディアを通じて大きく取り上げられ、

関係するところのあちこちで議論がなされました。



「水泳の時間、男だけ上半身を露出するのは、

 なぜなのか」

「テレビで男だけ胸、果ては尻まで露出するのは、

 男女平等の観点からもいかがなものか」



その結果、政治をも巻き込んで生まれたのが、

『男女平等のためのモザイク推進法』なるものでした。



新しく出来た法律は、"被害の多くが男性ゆえ対象が

男性に限定される"ということでしたが、趣旨自体は

男女いかんに関わらず、上半身まで露出することは

法律によって制限されることになるみたいでした。

ただ、僕は長ったらしい漢字のこの法律がいったい何を

具体的に意味するのかは、この時点では分からなかった

のだけど・・・。


家に着くなり、僕は母親の再三の注意にも

耳を貸さず、テレビのアニメを見ていた。

僕はそこで"あの法律"の持つ意味を

少し分かり始めることになるのだった。



主人公の少年が着ていた胴着を脱ぎ去った瞬間、

すかさずそこへモザイクが・・・。

(えっ、ただのアニメなのに・・・)

上半身の乳首は見えない。

カメラワークによって背中が映る場面にも

モザイクが・・・。

(えぇー、ただのアニメなのに・・・)

主人公の体型はほとんど判別が出来ない程の映像。

その光景はまるでモザイクという名の衣服を

身に纏っているような。

(うわー、ただのアニメなのにー!!)



程なくしてエンディングを迎えたアニメ番組に

僕は複雑な気持ちを抱いたまま、チャンネルを

変えることにした。



水泳教室を中継する番組、泳いでいる男の子の胸から

下は見事にモザイク柄で統一されていた。

画面上部に”水泳教室”とあるから、おそらくは

プールで泳いでいると推測できる程度の荒い映像。

ただ、何か視る側の見方によっては、いかがわしい

アダルトビデオでも見てるような、そんな気がしなくもない。



結論からいうと、法律の施行に合わせて

各テレビ局の姿勢は妙なまでに徹底されていた。



だけど、僕はホッとした気持ちも

ないわけではなかった。



このナントカ推進法のおかげで、僕たちもまた

あのヘンタイ女子から守ってくれるってわけだ。



数日後-。

僕たち男子は水泳の授業。

"男女平等"ということを基本に掲げていたことから、

僕たちは女子と同じ肩から掛けるような水着を想像していた。

だけど、どうも想像していたものとは、全くもって違うらしい。



「??」



いつものプールサイドとは何かが違う・・・。



「これで好奇の目にさらされることは絶対になくなったわ」

水着の上から白のTシャツを来た担任の女の先生は、

胸を張って僕たちにそう言った。



「たしかに見られることはないと思うけど・・・」



いつも通り振舞う女の先生とは対照的に、

僕たちはどこか戸惑いを隠せないでいた。

そして、その不安は女の先生の次の一言によって

見事に的中した。



「さぁ、今からあなたたち男子全員の海パンを回収します。」

「えぇー、なんでですか!?」

「当然でしょう、女子に見られることはなくなったんだから」

「でもそれは今まで散々苦労させられてきたことじゃないですか?

 それをいきなり"もう大丈夫だから裸に"なんて言われたって、、、」



よりにもよってすでに履いてきた海パンを回収するだなんて

どういうつもりか女の先生の意図が僕たち誰にも分からなかった。



「あら、聞いてなかったかしら?」



女の先生はあっけらかんとした表情で振り返った。



「え、どういうことですか」



「モザイク推進法第4条、公衆衛生法(公衆の面前および不特定

 多数がいる場所でみだりに裸になってはいけない)は、

 同法指定による特定の場所においては、目的・役割に意味を

 なさなくなったことから、これを永久に破棄する、とあるの。」



「え、、、ぜんぜん意味分かんないスけど。」



僕たち男子全員、呆気に取られた表情で女の先生を見つめる。



「だからね、分かりやすく言うと、

 あんた達には色鮮やかな模様(モザイク)という心強い味方が、、、

 ほらご覧なさい、プールサイドの周りには一面

 モザイク柄のテープが張り巡らされているでしょ。」



「は、はぁ、だけど外部の女子からはモザイクの色調で

 僕たちがスッポンポンなのがバレてしまいますよ。」



「そんなの関係ないの、とにかくこれがあるんだから、

 これまで禁じられていた”公衆の面前でハダカ”には

 当たらないのだから、よって、あなた達には海パンの着用も

 一切認めませんよ、ってことよ。」



「えぇーっ!!」

「えー、そ、そんなぁー」



ここで初めて僕たちの知らない間に大人の社会が作り上げた、

法律という名の束縛の恐ろしさを身をもって知ることとなった。



「え、で、でもこんな幅が約1mくらいしかないテープを

 周りに張ったくらいじゃ視る角度によっては、僕たちの

 ハダカ、やっぱり見られちゃうと思うんですけど、、、」



「大丈夫、女の子たちに覗く気があればそれは問題だけど、

 そこはちゃんとH.Rで時間をかけて指導しておきますから。」



「だけど、ちょっと指導したくらいじゃ、

 あいつらぜんっぜん意味ないですよ」



「そのときは私か他の女の先生に言ってください。」



「言ったら、どうかしてくれるんですか」



「まず、当人にその気があったかどうか聞きます。

 その上で、男子には覗いたという証拠を出して

 もらいます。それで先生が公平に判断します。」



本当にそれで客観的な判断が出来るのだろうか。。。

女の先生の言う証拠とは、おそらく記録に残る媒体、

すなわちカメラ付きケータイのことを指しているのだろう。

だけど、仮にケータイに僕たちの裸を撮られたとして、

その証拠を掴むには、まず自分がすぐに疑わしい女子の

所へ行って問い詰め、ケータイを確認しなければならない。

撮られた直後だけにまずは服を着なければ格好がつかないし、

ケータイを確認できたとして、それまでの時間に女子が

写真メールで送信して、その後消去でもされていたら

証拠が残らないばかりか、むしろ被害は拡大してしまう。



それを考えると、証拠を掴むのはほぼ不可能であって、

この法律は僕たちを守るどころか、被害を拡大してしまう

あまりに現状に即していない無意味なものに思えた。



「じゃ、じゃあモザイクで囲まれた場所はいらないから、

 このプールサイドを今までどおり公衆衛生法で指定された

 普通の場所にしてくださいよ。」

「そんなの無理に決まってるでしょ」

「な、なんでですか」



「国で決まったことは絶対に無理なのよ、絶対にね。」



「・・・・・。」



僕たちは言葉を失うほかなかった。




数日後、やはり想像していた通りに事件は起きた・・・。



「キャーキャー」



「おい、あれ見てみろよ」

「あっ、あいつらー」



「おい、お前らそのケータイで何してんだよ」



「きゃあー、ちんちん丸出しで話しかけて来たぁ/」

「あはははー」



「あっ」



僕は思わず股間を両手で押さえる。

同性同士の習慣とはいえ、慣れというのは実に恐ろしい、、

だが、女子にまで自分のハダカを見られて良いわけはない。



「そ、そのケータイで何してたか言ってみろよ」

「これ? 別にィ」

「使ってたから、ポケットから出してたんだろ」

「使ってなくたって、手に持ってることってあるよねー」

「うん、あるあるー」



「んな、言い訳が通じると思うのかよ」



「って言うかさ、、」

「ん、何だよ」



「あんたが立ってる場所、すでにモザイク法の

 指定有効地点から外れてんだよねー♪」

「きゃはっ、本当だぁ」

「アハハー」「キャハハ」



「そのテープから外に出た時点ですでに公衆衛生法の範囲よ。

 すなわち今のあんたはただのヘンタイもしくは露出狂よ。」

「キャー、ヘンターイ!!」



「だからフルチンを撮ろうが私達の勝手なのよ」

「後ろからお尻もバッチリいただきまーす」



「お、おい、やめろよ」

パシャ/

「あはは、慌ててる、フルチン君が慌ててるw」

パシャ/



僕は彼女の犯した悪行の証拠を押さえるつもりが、

うっかりモザイク法の外に出てしまったことで、

かえって被害を大きくすることに・・・orz



これでは、被害を親告することすらままならない。



僕は思った・・・。

違う、これは僕たちを守るものじゃない、

僕のごく身近な人にはハダカを晒け出すことになるばかりか、

それ以外の人に、必要のない好奇心をもかきたてる最低最悪の

法律だったのだ。



勘違いな法律もそうだけど、大人の代表ともいえる、

女の先生が放った次の言葉こそ、僕たちのことを同年代の

女子よりも軽視していることを窺わせるものだった。



「大丈夫よ、あんた達のちんちん見たって、

 何の得にもなりはしないんだから。」

迎夢 ( 2014/03/07(金) 23:24 )