05
†そこは霞の部屋の倍はあり、コンクリート剥き出しの壁が四方を囲んでいる。
仕切りも窓も一切無く、天井の四隅に通気口があるだけの至極殺風景な造りで ある。
黄橙色の間接照明が‥ぽつぽつ‥と壁に設置され、部屋の中をやや暗めに照ら している。 まるで倉庫の様な造りの中心に、天井から床までたっぷりと白いカ ーテンが吊され、四畳半程のスペースを四角く隠している。
カーテン内部には白色蛍光灯があるらしく、内側からカーテンを怪しく輝かせ ていて、西洋的な儀式が行われるかの様な幻術的光景を醸し出している。
…あのカーテンの中がこの世の最下層‥地獄よりもずっと下…
毎晩体感する行為を肌に感じながら、背筋を伸ばし、顔を上げ、失いそうにな る尊厳を必死に保ちつつ、隠された中央へ向かう。
…いつか力尽きるはず‥辛うじて残る抵抗力も後僅か‥その時、私は完全に形だ けの存在になってしまう…
…なってしまう?…
…なれる?…
…形だけになれば楽なんだろうか?…自ら命を絶つのとの違いは?…答えが欲し い…
明白な答えを自ら出せないまま、カーテンに触れれる位置で立ち止まる。 感 情を殺した霞の顔は、儚くも凛とした強さを持ち、生身の男にならば手を触れる 事も畏れ多いと思わせるだろう美しさである。
ただ、その表情には生命力が宿っていない。 美術館に展示してある彫刻、考 えうる美しさの要素を全て刻まれながら、魂だけは叶わなかった女神像の様に見 える。
部屋の外まで漏れていた妹の艶声、今では絞り出す様な呻きに変わっている。 無風のはずの室内で時折カーテン生地が揺れ、まるで中での行為に打ち震えてい る様に感じる。 と…呻きがぴたりと止む。
「霞、何をしている。早く入りなさい、優一郎が待っているぞ。」
中から父親の声が私を急かす。 一旦中断された行為に、妹の大きな息継ぎが聞こえ、深く吐き出した後…
「‥お‥姉ちゃん…遅い…っは…っ…ふぅ…」
妹は私と違う。雲一つ無い心を持ち、両親からの温もりも十二分に受けている 。 私が出来損ないの存在だから。
…私の欠陥はあんた達の責任じゃないか…
湧き出る感情を抑え、カーテンの合わせ目に指をかける。 途端に、粘着質で 淫美な波動が躰の芯を揺るがす。 普段感じない自らの体温が、急激に上昇して いくのが分かる。 それは指先から侵入し、頭の芯を揺るがし、胸を熱くし、下 腹部に留まる。
…ぁ…
頑なに殺していた感情が、堰を切って溢れそうになる。 だが、自分にとって 最後の堤防を破られる訳にはいかない。 奥歯を噛みしめ‥ぎゅっ‥と拳を握り 、下から込み上げる悦楽の誘いに抵抗する。
…いつもだ‥嫌なのに躰が抑揚する‥