堕落
59
ワンボックスカーは大久保から目と鼻の先の歌舞伎町に向かう。
時間は深夜2時をまわり、歌舞伎町のそばに来るとタクシーと酔っ払い、飲み屋の女、立ちんぼが増えてきた。
仲村は東京に住み出してだいぶ経つがこんな深夜に歌舞伎に来た事は無かった。
仲村は開門に言われた通り、歌舞伎町の周りを行き来するも深夜ということも有ってタクシーの客待ちの為、道路はタクシーに占拠されている。
「開門さんタクシーばかりでダメですね。他の所のほうが良いんじゃないですか?」
開門もそちらの方がゆっくりセンズリを出来て良いのだろう。
「そうだな・・・」
仲村にはどうしても納得出来ない事があった。
なぜシャブを仲村から買うのだ?開門くらいのヤクザ者なら他のヤクザからシャブを買うことは出来るだろう。それに仲村でなくても高山に黙っていろと言って高山から買えば話が早いではないか?なぜその様にしないのだ?
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「前も言ったんですが、なぜ私からシャブなんて買うんですか?開門さんなら私から買わなくてもいくらでも手に入るんじゃないですか?」
「な、なんだよ。急に?」
「いや、ちょっと気になってしまい」
「俺は関東会練馬一家龍道組の開門だ。他所のヤクザからポン中だって思われたくないんだ」
「・・・ヤクザの世界はあんまりわかりませんがそんなモノなんですか?」
別に仲村じゃなくて高山から買っても良いようなものだとは思ったが手間賃だといって1万円を上乗せもしてくれたことだしそれ以上は聞かないほうがいいだろう。
しかし開門の武勇伝魂には火が付いてしまった。
「俺はな15の時に初めてシャブをやってな19の時に殺人未遂で少年院に入って、21の時出てきてまたシャブをやり22の時に抗争で相手を日本刀で切って〜〜〜」
開門は焼肉屋でも熱く語った身の上話をカーテン越しに語りだした。
何度同じ事を語れば気が済むんだ?


結局その日、開門はノゾキよりも自らの武勇伝に熱くなってしまい。
仲村は開門の今までの人生を3回聞いた。開門の半生は仁侠映画顔負け凄いものだったが所詮はポン中の戯言たわごとである。まともになど聞いていない。
開門九官鳥はノゾキオナニーするのも忘れて、熱い生き方を語り続けた。
「その時、俺が相手組員を3人ボコボコにして、車のトランクにつめてさらったんだ。でその組員どうしたと思う仲ちゃん?」
「相手を病院に連れていたん違いますか?」
「何でわかるんだ?仲ちゃん凄いな。そうだ相手が素直に謝ったから許してやったんだ」
「開門さんは本当の極道ですね。ヤクザの鏡です。カッコいいですね」
「当たり前だ。俺は練馬一家龍道組の開門だ。その辺のチンピラとは訳が違うんだぜ」
「開門さんは本当にカッコいいです。あこがれます」
そういえば仲村は監禁された時も開門から同じ事を言われ同じ返答をしている。
もういい加減にしてくれ。外はとっくに明るくなり時間も朝の6時に成ろうとしている。
開門は何を思ったのか急に腹が減ったのか訪ねてくる?
仲村は別に腹は減っていないが眠たい。
「お腹は減っていませんが少し眠いです」
「そうだよな。仲ちゃん今日も仕事だもんな」
「そうです。昼には抜道の妻で仕事です」
「そうだよな。仕事はちゃんとしなっきゃいけないよな」
開門は案外そういうところは真面目である。
「はい、昼から仕事なんで」
仲村はそう言うと開門から開放されると思い言った。
「そうだよな。高田馬場の方面に行ってくれ」
高田馬場になど行ってどうするんだ?歌舞伎町からなどすぐの距離だがいい加減にしてくれよ。
「高田馬場ですか?行ってどうするんですか?」
「いいから早稲田大学の辺りに行け。行ったら後は車で寝ていいから」
面倒くさかったがそこに行けば睡眠を取れるということで仲村は車を走らせて向かう。

早朝という事もあり目的地にはすぐ着いた。
「よし、ここなら通学路だな。仲ちゃんもう寝ていいぞ」
寝ていいぞと言われてもこの辺なら漫画喫茶も沢山あるだろう。車の中よりそこで仮眠したほうがはるかに良い。
「ちょっと出てきていいですか?」
「ダメだ。俺を1人にするな。警察来たらどうするんだ。それとも腹が減ったのか?トイレか?」
さすがに眠い。いい加減にしてくれ。こんな事なら開門に付き合わないで自宅に帰った方がはるかにましだった。
「いや、じゃあ寝て良いですか?」
「おう、寝てもかまわないぜ。でも絶対にカーテンを開けて覗くなよ」
何を言うんだ。開門の変態オナニーなど覗くか馬鹿が。
「大丈夫です。じゃあ少し寝ますんで」
仲村はなんで開門について来たのかと後悔しながら携帯電話のアラームを11時にセットして椅子を少し倒し仮眠を取った。



仲村は携帯電話のアラームではなく開門の桃色吐息で目を覚ます。
携帯電話で時間を見ると10時を回っていた。
4時間弱、ワンボックスカーで仮眠を取っていたようだ。
車の中から外を見ると通学路だけあって大学生らしき若者が何人も歩いていた。
開門はそれを見ながら吐息を吐きゴソゴソしている。
急に開門に話しかけるのはダメだろうと思い。仲村はワザとらしく「う〜んよく寝た」と言って起きるフリをした。
開門は仲村が起きたことに気づくと慌てて服を着出した。

開門は充分満足したのかカーテンを開けて助手席に座た。
「よしメシでも食うか」
寝起きでメシなど食えるか馬鹿開門がと思いながらも早く分かれたくてしょうがない。
「もう10時なんで仕事に向かっていいですか?」
「仕事って12時からだろう?」
「そうなんですが今日はいつもより少し早く行こうと思って」
開門よ空気読んでくれ。
「そうかじゃあメシでも食ってから行けよ」
この開門という男はどれだけ人に食事を食わせるのが好きなんだ?
「いや食事は結構です。それより池袋に向かって良いですか?」
「そうだな、仕事なら仕方ないよな」
仲村は池袋にある抜道の妻に向かった。
もう誘われても開門の変態オナニーには絶対に付き合わないと思いながら店の前で開門と別れる。

迎夢 ( 2013/08/11(日) 03:55 )