堕落
49
仲村は急いで自宅から徒歩5分くらいの豊島園に向かう。
少し待っていると黒塗りのベンツが止まった。一見してその筋の人間と分かる車だ。
高山如き若造がそんな高級車に乗ってる訳は無いし絡まれたら嫌だな位に思っているとベンツのクラクションが鳴る。
仲村はベンツの方に嫌でも目が行った。
ベンツの窓ガラスが下り「おい」と声がする。高山だ。あのガキこんな高級車に乗ってやがると思いながら仲村は高山の車に乗り込んだ。

「すいません、高山さんこんな良い車に乗ってると思わなかったので・・・すごいですね。ヤクザはみんな金持ってるんですか?」
「持ってる訳ねぇじゃんかよ。まあオレは元々シャブの売人だったから客を何人も知ってるから持ってるほうだとは思うけどな・・・でもこれだって盗難車だぜ」
「えぇー!捕まらないんですか?」
「今の盗難車はエンジンナンバーまで打ち変えてるから車検だって通るんだぜ」
「本当ですか?」
「こんな車、正規に買えば1000万はするけど盗難車だから100万だしな。しいて言えばガソリン代と駐車代は痛いけどな。検問くらいじゃ絶対に捕まらないぜ」
そう言うと高山は車を走らせた。
ヤクザは何とアウトローな生活をしているのだろうか?盗難車を平気で乗り回し怖くないのだろうか?

車は2、3分走るとそれなりのマンションの駐車場に止まった。仲村の住んでる自宅から徒歩15分くらいの近場だ。
「ここ俺の家だから、今女と一緒に住んでるけどな」
考えても見れば仲村は近所の公園でこの高山からシャブを進められて今に至る。
「この近くにアジト有るからおっさんこれからシャブの密売する時にはアジトに来いよ」
「・・・はい」
どうなってしまうのだ?
仲村は高山に連れられながら少し歩き。
その途中、高山は携帯電話で何処かに電話した。
「俺だけど今からそっちに行くから」
そうして7階建てのワンルームマンションに入って行った。
702号室の前で高山ドアをノックすると内鍵が開いた。
仲村と高山は部屋に入るといかにもポン中と思われる年齢なら30前後であろうホスト崩れの男と若い短髪の男がいた。
高山は売人2人に仲村を紹介した。
「電話でも言ったけど今日から夜中だけ仕事を手伝う仲村だ」
仲村は売人に挨拶する。
「仲村です。よろしくお願いします」
「ヨロシク」
と売人達は挨拶した。若い短髪の男は言葉を聞き日本人ではない事が分かった。
「李リーです。ヨロシク」
そしてホスト崩れは
「沢田です。ヨロシク」
と挨拶した。

「おっさん一様、ここを仕切ってるのは李だからな。オレは客から注文来たら李にどこどこに05、2万とか言うからそしたら李が沢田にシャブ(シナモン)を渡して沢田が届ける仕組みだ。言って置くがオレはほとんどこの密売所には来ないから後は李の番号聞いて指示聞いてくれよ」
そう言うとちょうど良く高山の携帯電話が鳴った。
「はい・・・はい・・・いつものところですね・・・はい、15分くらいです」
そう言うと携帯を切り「早速注文だ。05ポンプ2を〇〇区の田中まで届けてくれ」
高山は携帯電話を4つも持っている。おそらく今の電話がシャブの密売専門なんだろう。
李は冷蔵庫からアルミの菓子箱を出し、それを開けた。
中にはパケ詰めされた覚せい剤がぎっしり詰まっていた。
仲村はそれを見ているだけでやめていた覚せい剤の記憶が走馬灯のようによみがえり、少し気持ち悪くなってきた。そして便意をもようした。
「おい沢田、おっさんも成れるまでしばらくは一緒に連れて行ってくれよ。客の住所なんて何度か行けば覚えるからよ」
李は封筒にシャブとポンプを入れると沢田に渡した。
仲村と沢田はアジトを出ると原付に乗り、沢田の後を付いていった。

想像してたよりもシャブの密売は単純明快だった。指定された場所にシャブを届けるだけの単純作業。
これからしばらくは昼はマメ屋に夜は売人の生活をするのだろう。

仲村はこのまま堕落してしまうのだろうか?

原付で沢田の後を付いて行くとボロボロのアパートに沢田は止まり、玄関をノックした。
ドアが開くと男にシャブ入りの封筒を渡し、現金2万を受け取る。

そのお金をアジトに持ち帰り李に渡す仕組みだ。

迎夢 ( 2013/08/11(日) 03:51 )