堕落
41
次の日の昼前に高山から仲村に電話が有った。
もしかしたら仕事の電話なのか?期待に胸して仲村は携帯電話に出た。
「おっさん。高山だけど昨日言ってた仕事なんだけど若頭に聞いたらおっさんならぜひ使いたいって喜んでたぜ」
「本当ですか?」
「マジだって。で今日池袋に来れるか?」
「今日って今からですか?」
「今じゃないけど夕方に若頭が一緒に食事でもしようって言うんだ。メシ食った後でも仕事の手順を教えてくれるんじゃないか?」
仲村は改めて仕事を確認した。
「風俗の仕事ですよね?」
「俺は若頭の仕事にはタッチしてないけどオマンコ屋で間違い無いって。何でだ?」
「いや行ったら風俗じゃなくてシャブでも密売しろ何て言われたら困るんで」
「何言ってんだよ。シャブ食う人間にシャブ屋なんか任せれるわけ無いじゃねーかよ。それは無いから安心しろよ。オマンコの商売だから安心しなマメ屋だって」
「ボッタクリとかじゃないですよね?」
「それは無いと思うぜ。今の時代にボッタクリなんて割りに合わねーぜ。詳しい事も今日若頭に会ってきけばいいじゃねぇーかよ」
「でも、行って仕事しないって断ったら開門さん怒ったりしませんか?」
「それは無いだろう?オッサンが仕事したいって相談したら喜んでたぜ。きっと若頭に気に入られたんだぜ」
シャブで同じ事を延々と繰り返す開門の話を真面目に聞いていた仲村は開門に気に入られてしまったのか?本当に合法な仕事なら願っても無い話だ。
「でも仕事が話し違うからイヤだって断ったらどうなりますかね?」
「それは無いって一週間くらい前からマメ屋で働くヤツいないかって言ってたし話し違うって突然従業員がいなくなり困るのは若頭のほうだしな。仕事内容聞いて嫌なら断ればいい話だぜ」
「分かりました。じゃあ何時頃に池袋に行けばいいですか?」
「若頭とは7時に待ち合わせだから6時30分に池袋北口まで来てくれよ。俺も一緒に来いって言われてるから今回は一緒に行くから」
「分かりました。6時30分までに行きますので」
そう言うと電話を切り時計を見た。時間は午後の1時45分、もう少し時間はある。仲村はシャワーをヒゲを剃った。
何だかいつもと違う、仲村さえやる気になれば仕事がおそらく決まってしまう。それも男なら一度はやってみたいと思うであろう風俗店だ。
何とも言えない不思議な気持ちだ。

身なりも綺麗になった仲村はサラリーマン時代の時のようにスーツに着替えた。
何とも言えない気持ちのまま5時には自宅を出て地下鉄に乗り池袋に向かった。


高山に言われたように池袋北口に向かうと時間を見た。まだ約束の時間まで1時間はある。
携帯電話を見ると山谷からメールが来ていた。
そう言えば昨日「山谷先生に相談している人は皆、未成年なんですか?みんなどうやって覚せい剤を辞めましたか?」と仲村はメールを送っていた。
「残念ながら35人の尊い命が私の不甲斐なさの為に自ら命を絶っています。そして残念なことに多くの者が薬物を辞めれずいます。貴方も覚せい剤をやりたくなったら山谷まで電話ください。何時でも相談に乗ります。」
この山谷という人間は何と律儀な男なのだろう。ちゃんと仲村に返事をよこすのだ。
仲村も「タカシです。私も今から仕事の面接です仕事受かったらまたメールします」とメールを送り喫茶店に入り時間を潰した。

時間通りに6時30分過ぎたら仲村の携帯は鳴った。相手は高山だ。
「池袋北口にいます」
「俺も今来たとこだけどどこに居るんだ?」
「遅れればダメだと思い待ってました。今どこですか?」
「北口のフクロウの像の前まで来いよ。待ってるからよ」
「分かりました」
仲村はそう言うと喫茶店を出て待ち合わせ場所に向かった。

言われたとおりフクロウの像の前に行くと一見してヤクザと分かる全身黒ずくめの短髪の高山が立っていた。
仲村は高山に話しかける
「すいません、わざわざ来てもらって」
高山はニタッと笑い仲村に言った。
「久しぶりだな。本当にシャブ辞めたのか?」
「はい1度もやってません」
「本当かよ。まあ少し顔は丸くなったからやってないポイけどな。じゃあ若頭のところ行くか?」
「開門さん怒ってないですか?」
仲村の開門のイメージとは暴力とシャブをやれば同じ事を繰り返すイメージしかない。
「何で若頭が怒るんだよ。おっさんが仕事無いかって電話してきたて言ったら俺のマメ屋で働かせるって物凄く喜んでたぜ」
「そうなんですか・・・」
本当に開門は仲村を気に入っているのか何とも複雑な気持ちだ。
「それとおっさん若頭を前の同じ事を繰り返してる九官鳥と思うなよ。あの人は普段は立派な人だからな」
「分かりました」
そう言うと仲村は高山に連れられて居酒屋に入った。
「予約してた高山だけど」
そう言うと店の従業員に案内されて個室につれて行かれた。


待ち時間より15分ほど早く到着したが開門は時間通り7時には店に来た。
例の如く、ヤクザ丸出しの時代遅れのパンチパーマにメーカのロゴが大きく付いていて派手でブランドと分かるセーターを着ていた。
高山は立ち上がり大声で「若頭おはようございます」と挨拶をした。
もう夜といっても良い時間なのにヤクザは変な挨拶をするものだと思った。
仲村も立ち上がり「先日はご迷惑をかけまして申し訳ありません」と心にも思ってない事を言った。
「何言ってんだよ。久しぶりだな。名前は何て言ったけ?」
開門という男は仲村の名前を忘れていた。
「仲村隆志です」
「そうそう、仲村だった。で俺のマメ屋で働きたいのか?」
「働きたいというかもし仕事内容を見て警察に捕まらないようで開門さんが良ければ使ってもらおうと思いまして」
「まあ警察に捕まるか捕まんないかはわからねぇが許可は一応有る店だしな。やる気が無い人間が一番困るから正直に話してくれよ。まあメシ食ったら店連れて行ってやるから自分で決めればいいさ。これもなんかの縁だしな」
仕事したくなければ断っても良いとは開門も頭のおかしい人間じゃ無さそうだ。
開門はそう言うと従業員を呼ぶチャイムを押した。
従業員が来ると「なんか食いたい物は有るか?」と聞いたが高山は「何でも良いです」と言うので仲村も開門に任せた。
「じゃあ適当に肉と魚を一番高いの10人前とビール3つ。仲村は飲めるんだよな?」
「はい飲めますが私は今、持ち合わせがいくらも無いですよ」
開門は仲村の返答に笑い出した。
「いくらなんでもメシ位は俺が払ってやるよ。ヤクザが下の者に金払ってもらったなんて噂広がったら格好悪いだろうが俺は練馬一家の開門だ」
何ともヤクザらしいと言えばヤクザらしい人だ。メニューも見ないで一番高い肉と魚を10人前つづなど一般の常識からすればありえない。
サラリーマン時代でも値段を気にしないで注文をした事など無い。
開門はビールが来たら一気に飲み干し焼酎を頼んだ。
運ばれてきた料理はどれも物凄く美味かった。
仲村もビールを3杯目でアルコールが回ってきた。
「仲村これ以上飲むなよ。仕事を見に行くんだからよ」
「分かりました」
開門は話すとイメージが全く変わっていった。
3人では多すぎる量の食事も全部食べ終えて3人は店を出た。
「じゃあ店に行くか」
こんな美味い食事は久々だ。酒も入り仲村は上機嫌になりながら開門の店に向かった。

迎夢 ( 2013/08/11(日) 03:47 )