堕落
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山谷は公演を聴いている子供達に大きな声で言った。
いいかお前達、法律的には子供でも自分でやった事は自分で責任を取るのが人間だ。
たとえ人をいじめようが鉛筆一本盗もうがリストカットしようがシンナーやろうが覚せい剤やろうが自分のやった事は自分で責任を取るのが人間だ。
それを踏まえた上で話を聞いてください。

その日からタカシの学校でのイジメは一切無くなりました。
イジメたら中学生から2倍イジメられるからです。
そしてタカシは中学に進学すると不良の先輩達と毎日、シンナーをやる生活に成りました。
「おいタカシ、今日ウチでアンパンやろうぜ」
「最高に楽しいぜ」
先輩にお世話に成ってるから断れないでタカシは中学1年でシンナーをやり学校にも行かなくなってしまいました。

そしてタカシが中学2年の時だった。公園で仲間数人とシンナーをやっている少年がいた。私はその頃から深夜繁華街を夜回りしたりしていたのでちょうど車で繁華街に向かう途中だった。
夜の10時頃だったが公園で少年達がたむろしていたので「お前ら何やってるんだ?」と私が少年に話し掛けたら少年達は「やばいポリだ」て叫んで逃げ出した。みんな走って逃げたが1人だけシンナーでラリながら居たのがタカシだった。

それがタカシと私の最初の出会いだった。
私は警察ではないので少年を警察に連れて行こうという気持ちは全く無かった。
ただシンナーで真っ直ぐに歩けない状態のタカシをこのままにして置くのは大変危険だと思い。車にタカシを乗せてタカシの家まで送っていった。
タカシは髪の毛を中学2年で金色に染め太いズボンをはいていたがとても素直な子供だった。シンナーでおかしくなりながらも危険だから自宅まで送ってやると言ったら素直に自宅を教える子だった。
そして自宅にタカシを送るとタカシのお母さんに私は定時制の高校教師だと教え、なんか有ったらすぐに電話くださいと言って教員の名刺を渡した。

それから4日後の夜の7、8時頃だった私はタカシの事などすっかり忘れていた。いつもの様に夜間高校で授業を教え終わり職員室に行くと金髪の太いズボンをはいたタカシがいた。
私は4日前に自宅まで送っていた少年のことを思い出しどうしたんだと問いかけた。
するとタカシは4日前はすいませんでしたと言って謝った。
なんでも謝りたくて母親にやった名刺を見てわざわざここまで来たようだ。

それからタカシはなんか有ったら私に電話をかけて相談するようになった。
「山谷先生またシンナーやっちゃったよ」
「もうやっちゃたもんは仕方ないから、残りのシンナーがあるならトイレにそのシンナー流してシンナーやりたくなったら山谷に電話しろ」
「ごめんよ先生、約束守れなくて」
「いいんだ。今日からやらなければいいんだから」
そしてタカシは泣きながら私にシンナーをやった事を謝った。
そしてタカシはまた4日もすれば泣きながらシンナーやってしまったと私に電話してくる。
「先生またやっちゃったよ。オレまた先生との約束破っちゃったよ」
そんなタカシとの関係が1年以上続いた。中学すら半分以上行っていないタカシだが母親の高校だけは出て欲しいとの願いから私の夜間高校に入学してきた。

タカシはそれから私の家に泊まったりしながら3ヶ月間高校に通った。
相変わらずシンナーは辞められずに夜中泣きながら「先生またやっちゃたよ」と電話をよこしては自宅に泊めてシンナーを辞めさせる生活をしていました。
忘れもしない6月25日タカシは私に「山谷先生、オレ先生じゃシンナー辞めれないよ。先輩から聞いたんだけど薬物治療の病院に連れて行ってくれよ」と言うのです。
私は正直、ムッと来ました。自分の子供と同じよう様に自宅に泊めたり相談にのって来たタカシが山谷じゃシンナーをやめれないと言ったからです。
その日、タカシに冷たかった。「分かったその病院に連れて行けばいいんだろう。でも今週忙しいから来週な」ってウソを付き私の冷たい反応にタカシも気づいたんだと思います。
先生、気を悪くしないでくれよ。それより先生の家に今日行っていいか?
私はムッとしてたので今日は忙しいから無理だと言って返すと帰り際、タカシが「山谷冷てぇーぞ」と大声で叫んで帰っていきました。
それが私とタカシの最後の言葉です。
その4時間後、タカシと始めてあった会った公園でタカシは一人でシンナーをやりフラフラになり、シンナーの幻覚でダンプカーのライトの灯りが綺麗な物に見えたのでしょう。自らダンプカーに向かって歩き・・・即死でした。

次の日、お母さんと火葬場に行きました。
1時間弱で焼き上がりタカシのお母さんが泣きながらシンナーが憎いと叫んでいた事を今でも昨日の事のように覚えています。

ここに居る子の中にもシンナー誘われた事ある奴いるかもしれないが、もしいたら絶対に断れよ。

みんな自分は辞めようと思えば直ぐにやめられると思ってやるのが麻薬だ。
シンナーから大麻、大麻から覚せい剤とだんだんと危険でやめられない麻薬に移動していくのが麻薬だ。

そのような説明をして最後に山谷はテレビに向けて言った。
「何でもいいから相談に乗るので困ってる人がいれば連絡ください」
そう言うと山谷のメールアドレスと電話番号がテレビに映し出された。
山谷はテレビを見ている人に向かってこう言った。
「一人で悩んでいなくても好いから、どんな相談にも乗るから連絡ください」

全部が本当の話だとは思えないが口は物凄い上手い。
思わず山谷ワールドに引き付けられる程の熱弁だった。
別にシャブをやりたくて電話したわけじゃない。山谷なら何かこれからのヒントがでるかもしれない。
それと愚痴を聞いてくれるのかと思い仲村はその連絡先をメモすると自分の携帯電話で山谷の番号を押した。
「ツーツーツー」
やはりテレビでやったばかりなので電話がすごいのだろう。話中だった。
仲村は携帯電話で山谷に遊び半分でメールを送った。
「山谷先生、始めまして私の名前もタカシって言います。同じ名前のせいかテレビを見てなぜか共感してしまいメールしています。私も出来心で覚せい剤をやってしまったことがあり今ではやってないのですが今でもたまに蟲が湧き大変です。良かったらアドバイスください」
本当に返事が来るのかな?そんな期待をこめて仲村は山谷のアドレスにメールを送った。

迎夢 ( 2013/08/11(日) 03:46 )