堕落
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仲村はこの山谷修やまたにおさむのテレビを見た。
何でも都内の繁華街で夜回りして少年少女の非行や薬物乱用から守っている夜間高校の教師の様だ。
薬物と非行少女の言葉に興味をそそられただけだ。


どうやら何処かの中学校での講談の様だ。
体育館に全校生徒が集められて山谷が薬物の恐ろしさについて語り始めている。

今日、私の話を聞いてくれてる子の中の4人に1人がシンナー、大麻、覚せい剤、合成麻薬MDMAを誘われると言われます。
繁華街の不良外国人、ヤクザの売人、でも薬物をやるきっかけで一番多いのは先輩や友人の誘いです。
なぜ先輩や友人が一番多いのかわかりますか?
それは麻薬をやれば辞められなくなるからです。だから他の者に売ってその儲けで自分でやる麻薬を買うのです。
皆も怖い先輩に誘われた時に先輩そんな物やってたらダメだよ。一緒に警察に行きましょうと言える人居ますか?みんな怖いから言えませよね。
皆さんは麻薬は絶対にやらないでください。一度やれば辞められないのが麻薬です。そして一度でもやれば脳の神経が破壊されます。
自分なら辞めようと思えば絶対に辞められると思ってやるのが麻薬です。そして辞められなく成り一度の好奇心で人生を棒に振るのが薬物です。

山谷先生はそう言って自分の手を上げて4本の指を立てた。
これからもしも君たちが薬物を誘われた時の安全な断り方を4つ教えるからもし麻薬を誘われたら絶対にこう言って下さい。
1つ話題を変える
「今日オレの家でシンナーやるから来いよ」
「先輩それより昨日のM1面白かったですね。オレ腹かかえて笑いましたよ」
「何言ってんだよ。シンナーの方が面白いぞ」
「それより先輩、阪神調子良いですね。オレ阪神ファンなんですよ」
とにかく話を薬物から変えろ、何でもいいから30回言ってもまだ麻薬を誘ってきたら作戦を変えます。

2つ目の作戦は壊れたレコード作戦です。
「なあお前、今日みんなでシンナーやるから来いよ」
「でもお母さんに怒られるから」
「何言ってるんだよ。バレ無いって」
「でもお母さんにバレたら怒られるから」
「何だお前マザコンか?それともオレを舐めてるのか?」
「違います。お母さんに怒られるから」
とにかく壊れたレコードのように同じ事を繰り返してください。
それでもまだ言ってくるようなら次の作戦です。

3つ目の作戦は3D作戦です。
だって、でも、どうしてを10分間繰り返します。
「なあスゲー楽しいぞ」
「だって用事があるし」
「気持ちいいぞ」
「でも怖いし」
「みんなやってるんだぞ」
「どうしてオレを誘うんですか?」
とにかく10分間、だって、でも、どうしてを繰り返してください。
9割がこれで逃げられますが残りの1割がまだ言われます。その1割は女の子です。
山谷はそう言うと公演聴いている女子生徒を指差して言った。
女の子は男の子より旨みがあります。よーく覚えて置けよ。男は麻薬を売るだけだが女は麻薬のほかに身体を売ることが出来ます。だからヤクザや不良外国人、売人は女の子には特にしつこく言ってきます。

最後の4つ目の作戦はこの3つ目の作戦でもダメな場合に使ってください。
逃げるのです。とにかくその人達から逃げるのです。
逃げる時も道の広い方へ、人の沢山いる方へ、そして明るい方へ逃げてください。
悪い事をしている人間は後ろめたい事をしているのが自分自身でも分かっているので人の多い明るいところまでは追ってきません。
これが最後の作戦です。分かったかお前ら!
さすが中学生だみんな素直にうなずいている。

そして山谷は水を一口飲み話を続けた。
今日いる子の中にタカシって男の子はいるか?いたら手を上げてくれ。
仲村も名前は隆志たかしである何とも山谷が自分に問いかけているようで不思議な感じがした。
500人近い生徒がいるので2,3人の男の子が手を上げた。
ありがとう。タカシて名前の子はいい子こばかりだ。逆に私と同じ名前のオサムて名前の奴は悪い奴ばかりだ。
山谷のつまらないギャグで生徒は笑い出した。
私の教え子にタカシという子がいた。
タカシはすごいやさしいい子だった。先生が良い子と言ってるのは勉強が出来る子じゃない。素直で優しい子の事だ。
タカシはお年寄りがゴミを捨てにいってるの見つければオレが捨ててきてやるよってゴミ捨てに行ったり、年寄りが大きい荷物を持ってると重そうだからオレが持ってやるよと言ったりしてもって行くような子だった。
タカシの家は物凄い貧乏な家だった。お父さんがヤクザをやっていてタカシが5歳の頃にタカシとお母さんに暴力ばかり振るい離婚していた。
タカシのお母さんは立派なお母さんで朝早くからクリーニング屋で仕事をして夜はラメーン屋とコンビニのアルバイトを掛け持ちしながらタカシを一生懸命育ててくれた。
貧乏ながらもタカシはお母さんと仲良く暮していたが運命とは残酷なものだ。
タカシが小学5年の時だった。お母さんが病気で倒れた。朝早くから夜遅くまで働いていたから無理が祟ったのかも知れない。
タカシの家はそれから食事も満足に出来ず国のわずかな生活保護だけで何とか生活していた。
タカシは物凄く優しい子だった。自分は昼間の給食をほとんど食べないで持ち帰り、病気で寝ているお母さんに給食の残りを
食べさせていた。そんな子だった。
タカシの学校の先生がそれに気が付き、給食を持ち帰る理由を聞いてもタカシは貧乏で食事を買う金がない事を恥ずかしくて言わなかった。
給食というものは食中毒等を起こしたりしたら大変なので原則は持ち帰りは禁止だ。
それでもタカシは公園に捨て犬がいると嘘を付き給食のおばさんに頼んで何とか牛乳やパンを貰っては持ち帰っていた。

山谷は水をまた一口飲む生徒に指を指していった。
お前達の中にはいないと思うけど、もしもいたら先生は絶対に許さないぞ。私はイジメだけは許さないぞ。
タカシは給食のおばさんから昼休みにこっそり給食のあまりの手付かずの牛乳やパンを貰い先生や他の生徒にばれない様に隠して学校から自宅に帰る時に給食の残りをこっそり持ち帰っていた。
しばらくするといつもの様に給食の余りを持って学校を出ようとした時だった。学校の校門の前でいじめっ子の男の子3人、女の子2人がタカシを待ち構えていた。
「おいタカシお前の家は貧乏だからご飯食べれないから給食持って帰って食べてるんだろう」
「違うよ。公園に捨て犬いるからあげてるだけさ」
タカシは貧乏な事を認めたくなく必死で嘘を付いた。しかしいじめっ子は嘘を付くなと言ってタカシを公園まで連れて行ってどこに犬がいるか、いるなら出してみろと言った。もちろん犬などいない。
「お前ら見たいなのから悪戯されないように隠したんだよ」
タカシはそう言うといじめっ子達は逆上してタカシをみんなで殴る蹴るの暴力を振るった。そしてタカシが持ち帰っていた牛乳やパンを取り上げて地面に捨てた。
「犬が食うなら関係ないよな」
そう言っていじめっ子達はパンを足で振付けた。
いじめっ子にがいなくなった公園には泥だらけのタカシと給食の残りだけがあった。
それからタカシは毎日学校から帰る時にいじめっ子に校門で待ち伏せされて給食の残りを踏まれ続けました。そしていじめっ子が居なくなると砂の付いたところだけを丁寧に取って自宅に持ち帰り病気のお母さんにばれない様にパンを細かく切って食べさせたりする生活を続けていました。

タカシをイジメから救ったのが近所の不良中学生でした。いつもタカシが泥だらけに成っているのを近所の不良中学生が気づき次の日にタカシが公園で囲まれているところを不良中学生の友人数人と行って、いじめっ子達を並べてもうタカシをイジメ無いように暴行しました。
その日を境にタカシへのイジメは一切無くなり。
タカシはその日から不良の先輩と遊ぶように成りました。

迎夢 ( 2013/08/11(日) 03:46 )