case.3
02
一人暮らしを初めて2年が過ぎた頃だった。
俺は夜勤明けで疲れていたはずなのに昼前に起きてしまったのだが、また寝られる様子がないため、コンビニに行こうと外へ出た。
その瞬間こそ、全ての始まりだった。
外へ出たその時、見覚えの無い女性と会ったのだ。
そういえば数日前、マンションの前に引っ越し屋のトラックが停まっていたのを思い出した。
借り主はこの女性だったのか。軽く会釈すると、女性は笑顔で話し始めた。


「隣の部屋の方なんですね。二日前に引っ越してきた、上西恵と言います」

「ああ、どうも、小山恵太と言います」


華奢な見た目の割に、服の上からでも分かる大きな胸。
美人さんだなとは思ったが、自分はなびく事はなかった。なぜなら付き合っている彼女も胸が大きいからだ。ただし、この人よりは痩せてないが。

コンビニで昼飯を買い、外に出ると、呼んだわけでもなかったのに彼女が待っていた。
コンビニの袋を手に下げていたため、自分のところに来るつもりだったのだろう。


「呼んだわけじゃないんだけど」

「夜勤明けというとこからあんたの行動を察したの、どうよ」

「余計なお世話だ」

「余計なって、ひどくない?逆に聞くけど、余計じゃない事なら何してほしいの」

「じゃ、美奈の胸でも揉ませろ」

「くたばれ、変態」

「痛っ!」


テンションの違いはあるにしろ、美奈はこちらを裏切ることはない、ぞっこんながら余計なお世話焼きの彼女だ。

そのまま美奈と一緒にマンションへ戻ると、部屋の前でまた上西さんと会った。
先程の笑顔を、今度は美奈にも見せた。


「あ、小山さん」

「どうも・・・なんだか慌ただしい感じですが」

「引っ越しは終わったけど、荷物を出し終えてなくて。一人だと大変で」

「失礼ですが、一人暮らしなんですか?」

「そうなの」

「・・・よければ、手伝いましょうか?大変そうですし」

「・・・なら、お願いしようかな。正直、女一人だと重くてきついものもあるし」

「美奈、先に部屋入って、これ置いてきて」

「あ、うん」


そんなわけで荷物を出す手伝いを始めたが、本や服の類いは確かに重くて大変だった。
やはり女性は服が多い。化粧品や美容品も多く、そのあたりは美奈のおかげでまとめられた。
男の人が下着を触るのは嫌がられると美奈が言っていたため、手を出せずにいたのもあった。


「二人ともありがとう、お陰で一時間ちょっとで終わっちゃった」

「いえ、休みで暇だったもので」

「彼女さんも手伝わせちゃって、ごめんね?」

「あーいやいや、いいんです!どうせ自分も暇だったので!」


こうして部屋を見渡すと、落ち着いた雰囲気の部屋になった。
自分の部屋も掃除するか、そう考えていた時だった。
上西さんの左手の薬指に指輪がはめられていたのを、俺は見てしまった。


「恵太、そろそろ出よう?迷惑になるよ」

「え、ああ、そうか。では失礼します、突然入っちゃってすみませんでした」

「ううん、二人のお陰で片付いたから助かったよ。こちらこそありがとうね」


自分の部屋に戻ると、コンビニで買ったパンを食べながら、先程見たものについて美奈に話した。

「上西さん、左手の薬指に指輪してた」

「え、マジ?既婚者なのかな」

「でも不思議だった。男物の服とか、そういうものが一切なかったんだ」

「確かに。女の一人暮らしって感じの荷物しかなかったよね。量も含めて」

「離婚したとか」

「やめなって、そういう詮索」

壮流 ( 2019/11/24(日) 00:31 )