03
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
夜7時。和希は家に入ると、丁寧に手を洗い始めた。目的を話さずに誘ったのだから、和希も何かあるのではと思っているのはわかる。
いきなりここで話してもダメだが、両親が同窓会から帰ってくる前に目的を果たさなければ。
その為には今すぐでなければならない。
「ねぇ、和希、今日呼んだ理由なんだけど・・・」
「あ、ああ、そういえばそれを聞きたかったんだ。未央奈の家にきてとしか言われなかったから、何かあるのかと思ってさ」
「・・・実はね」
「?」
「・・・一緒に観たいDVDがあるんだ。だから、観よう?」
「ディ・・・DVD??」
「・・・うん」
「・・・ま、まぁ、いいけど。あれか、もしかしてホラーとか、そういう類いの?」
「いや・・・そうじゃなくて」
「そんなに言えない内容?」
「・・・と、とにかく観よう!早く座って!」
今の私は和希から怪訝な目でしか見られていないだろう。冷蔵庫からお茶を出し、コップに注いで和希に出すと、私は覚悟を決めてDVDを再生した。
「・・・ちょ、未央奈、これはあれか・・・」
「・・・あれだよ、あれ」
「アダルトなやつだよな」
「・・・うん」
「・・・ちょっと待って、これは予想外だった。未央奈の方からこんなの見せられるとは思わなかった」
そりゃそうだろう。男の方が観てるのを“うっかり”観てしまったパターンならよくあるだろうけど、女の方から一緒に観ようと誘うパターンは非常に珍しいはず。
和希は私に幻滅したかと思っていたが、その反応は意外なものだった。
「・・・観るか」
「え?」
「・・・正直、興味はあったからここで一枚くらい観ても問題はないだろうし。観るだけなら」
「・・・そ、そうだよね、はは」
お互い余計に緊張してしまって、リモコンの操作ですら、手が震えてしまっていた。なんとか再生ボタンを押し、お茶を飲むと、和希の隣に座った。
「ところで聞きたいんだけど・・・これ、未央奈が借りたの?」
「・・・兄の持ってるやつ」
「お兄さん?あれ、未央奈って、お兄さんいたの?」
「・・・寮生活してるから今は家にはいないの。でも物は残ってて、その中に何枚かこういうDVDあって」
「なるほど・・・」
かなり恥ずかしかった。しかも内容はそこそこハードな学園もの。教師と生徒のラブ、教師同士、生徒同士のラブ、呼び出して再生までしておいてなんだが、今すぐ消したかった。
ミュージカルのように途中に歌を挟むかの如く、随所に挟まれるセックスシーン。最初に観たのは女教師が男子生徒と隠れてセックスをするシーンだ。
しかし不覚にも、ここで私は変な妄想をしてしまっていた。この女優がまるで倉持先生のようにセクシーなのだ。私が男だったなら、倉持先生にこうやって手を出したいと思ってしまうに違いない。
あるいは女同士でもいいとさえ。
「凄いね、セックスってあんなに体を触り合うものなんだ・・・」
「今ね、私、倉持先生とセックスしたら、って想像しながらこれ観てた」
「・・・倉持先生か、確かに色っぽいよね」
やはり和希も倉持先生で想像するのは納得した。あの色気は私にとって羨ましい限りだ。
この女優の喘ぎ声のように倉持先生が乱れたら。それを想像していると、私の体が熱くなり始めた。
「?・・・どうしたの?」
「いや・・・何でも」
シーンは進み、今度は図書室の奥で隠れてセックスをしているシーンだ。
こっそりとセックスするのはどれだけハラハラするのだろう。
もし私が和希に誘われ、急に「ここでしよう」と言われたらどうするだろうか。
恥ずかしさと戦いながらセックスする勇気は正直言って無いが、そのハラハラは味わってみたい。
「ちょっと止める。トイレ行ってくるから」
私はやらかした。でもそれを和希には言えなかった。
兄の持ち物の中にあった、精力増強剤を和希のお茶に入れて飲ませていたなんて。
勿論、私のお茶には何も入れていない。
私は確信犯だった。