04
「姉貴は?」
「寝た」
「そうか・・・はぁ」
午後10時。今日もストレスフルな一日が終わった。ここからは玲奈と一緒に、今日一日の鬱憤を吐き出す時間だ。
「じゃやるか、いつもの」
「オッケー。では・・・」
玲奈と俺はTシャツを脱いだ。互いにハーフパンツで、玲奈はスポーツブラ、俺は上半身裸。
「れなっちVS雄介、今日も一日戦い抜いた褒美に・・・ストレス発散の為、一戦交えたいと思います!」
「かかってこいや兄貴ぃぃ!!」
手加減無しのぶつかり合い。男女の力の差はあるが、玲奈は意外と力強い。顔を平手打ちしたり、グーで殴ったりもするこの試合だが、これは自分と玲奈にとって、溜まったストレスを発散するのに効果的なのだ。
この瞬間は呼び方も変わる。「れなっち」と「兄貴」という、更に馴れた間柄を表す呼称だ。
「ナメんなよ兄貴ぃぃ!」
「れなっちこそおぉぉ!」
時間にして約10分ほど。だがたったそれだけで、ストレスは綺麗に吹っ飛んだ。
汗だくのままソファーに座り、そのまま密着した状態になると、玲奈が俺の肩に顔を乗せてきた。
「うちらって昔からわんぱく兄妹だったじゃん、その気は抜けないんだねぇ」
「性格なんだろうな、大人になってもこれが楽しいと思えるって」
「お母さんとお父さんにめっちゃ叱られたのもいい思い出だよね」
「近所迷惑だって叱られたけど、これ楽しいからやめられなくなっちゃって、高校生になるまでやってた気がする」
「確かお兄ちゃんが高校生になって以降、これやってなかったね。だからうちは学校で気に入らないやつを相手に本気で今みたいな喧嘩とかしてたよ」
「血の気の多い妹だな」
「普段から粋がってる男子ほどヘタレなやつ多いんだもん。案外勝てるよ」
「そういうもんなのか・・・」
呼吸が整ったあたりで、玲奈は冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注いで持ってきた。試合の後の麦茶は格別に美味しい。
汗をタオルで拭き取り、シャツを着ると、そこに玲奈がまた密着してきた。
「お兄ちゃん明日休み?」
「・・・いや、一応明日も出勤」
「お姉ちゃんどうする?」
玲奈の一言で、坂本のLINEを思い出した。今日の姉貴の様子によっては明日俺を休みにしてもらえるよう話しておく、というメッセージだ。
今まではそれでも出勤していたが今回はその言葉に甘える事にして、坂本にメッセージを返した。
「明日休み取るわ」
「大丈夫なの?」
「同僚が話をつけてくれるって」
「そうなんだ。そしたら、明日お姉ちゃん病院に連れていこう。でないと手遅れになっちゃう」
「だな。明日朝イチで電話して、午前中には病院連れてこう」
「わかった。明日はうちも休みだから、一緒に行くね」
思い立ったが吉日、とはこの事。
早いうちに手を打たなければ姉貴はまたやらかすだろう。
午前7時に目覚ましアラームをセットして、玲奈と俺は眠りにつく事にした。