02
「おはよう」
「おはよう・・・おいどうした、テンション低いな。またお姉さんか」
「またそんな顔してた?・・・そろそろ俺、限界かもな」
「壊れる前に話せよ、愚痴ならいくらでも聞いてやるから」
「いつも悪いな、坂本」
姉貴の事情は会社の人間や大学の頃の友人や教師も知っている。この坂本という男は一番自分を理解してくれている親友だ。
姉貴が初めて事件を起こした際、真っ先に電話を寄越してくれたのは彼で、第一声は“俺の心配”だった。
会社へ復帰した際も、坂本は周囲に姉貴のニュースを伏せるように口を回し、俺の立場を守ってくれた。上司も後輩も理解のある人で本当に助かったが、俺が姉貴の事を考える時間は消えない。いつか、内輪の問題で身が滅びてしまうかもしれないが、その時まで周りに頼るつもりはない。その時は覚悟を決めている。妹だってそうすると言ったのだから。
「田村くん、おはよう」
「課長、おはようございます」
「お姉さんの調子はどうかな」
「・・・正直、あまり良くはないです」
「そうなのか」
「近いうちに、外出許可を取り下げてもらおうと思っています。完治するまで外出禁止にしないと、正直、体が持ちません」
「・・・君も、お姉さんも、か」
「・・・そうですね」
課長は何も言わずにデスクに戻っていった。これ以上は聞かないという気遣いがとても助かっている。
「先輩」
「岡田」
課長に続いて声をかけてくれたのは後輩の岡田奈々。彼女にも何度も助けてもらっている。
姉貴の起こした事件に、陰口を叩いてくる女性社員が多かった中で唯一、最初からこちらの味方だったのが岡田だ。
坂本、岡田の二人はいつだって自分の愚痴を聞いてくれるが、岡田に至っては金銭面で支援までしてくれたこともある。
「お姉さん、外出させないようにするって聞こえましたが・・・」
「・・・近いうちにそうしようと思ってる」
「また、手を出してしまった感じですか・・・?」
「わからない。でも朝帰りする日は手を出したのか心配だから。このまま不安でいたら、俺が先に倒れるかもしれないって思って、外出許可を取り下げるように先生に言うつもりだよ」
「・・・そうですよね。その言葉が信用できなくなるのも分かります・・・」
「姉貴はそれでいい・・・だけど俺は仕事を休んだらダメなんだ。玲奈の稼ぎだけじゃ家計が持たない」
「ダメですよ先輩、何もしないっていう、完全な休日を月に一度でも作らなきゃ、本当に死にます」
「わかってる、わかってるんだよ・・・でも・・・」
「岡田・・・そのくらいにしとけ、こいつの家庭の話は」
「・・・すみません、戻ります」