case.8 向井地美音
04
「いいですか、とにかく自分から離れてください。自分はあなたと関係を持とうなどとは思っていません」

「でもぉ、あたしの縄をほどいたのはあなたでしょ?責任とってもらわないとダメじゃない」

「自縛癖の女をたぶらかすなんて。あなたってイカれてる・・・」


未央奈、美音にベッタリと腕を取られた。字で書くなら“取り憑かれた”と言ってもいいだろう。
こんな危険な二人に加えて玲香まで連れて歩くことはできない。
下車した時間も遅いため、翔は何としても穏便に事を済まそうと、未央奈、美音をとある場所へ連れていった。

「ここは何なの?」

「・・・ずっと昔、自分が隠れ住んでいた廃墟です。組織を抜け出してどこにも身を潜める場所がなかった頃に、ここで寝ていました」

「そうなの・・・暗罪黒兎の名前が生きていた頃に・・・」

「その名前は禁止です、とにかくここで今日は寝てください」

「待ってるわよ・・・早く縄をほどきに戻ってきてね・・・」



そして急いで玲香の元へ戻ると、翔は高架下で玲香に告げた。


「あなたを危険には晒せません。すぐに自分との関係を断ちましょう」

「・・・そんなに嫌なの?」

「自分は犯罪者です。あなたと同じ生き方をしても、自分の事を誰も許してくれないんです。だからあなたと一緒にはいられません」

「理由になってない・・・」

「ええ、理由なんてそんなものばかりです。大概の理由なんて理解されません。特に自分の場合は」

「ただの自分勝手でしょ、そんなの・・・」

「自分勝手でも、通さなければいけない事があるんです」


泣き出す玲香に対して冷たい態度しかとらない翔。玲香を想っての事なのだろうが、受け入れられるはずもなかった。



「あなたの人生から、自分の記憶を全て消してください。名前も顔も、時間も」

「そんなの・・・・!」

「あ、お巡りさん!こっちです、こっちから人の声がして・・・」

「!」

「気付かれたか・・・」

「待って、行かないで!」

「・・・さよなら」




通報を受けてやってきた警官が見たものは、泣き崩れた玲香だけ。翔の姿はもうなかった。



「すみません・・・もう、あなたの中に、自分はいてはいけない」

「あの子を捨ててきたの?」

「・・・ええ」

「結構酷な事をするのね」

「玲香さんと一緒にいると、玲香さんの人生が狂ってしまう。だから、そうなる前になんとしても・・・」

「・・・やっぱ、あなたってイカれてる、暗罪黒兎さん」


翔は何も言わずに服を脱ぐと、未央奈、美音を抱き寄せた。


「縄をほどいてくれる・・・?」

「早く血を飲ませて・・・」


(祐唯さん、もう少しで、あなたの元にたどり着ける・・・だからまずは・・・)

■筆者メッセージ
新年一発目。
なぜか東京で新年を迎えるという謎の状況です。
このストーリーも終わりに近づいていますので、更新早めにしたいところです。
壮流 ( 2018/01/10(水) 14:24 )