04
「パパ、この人が先に助けてくれたんだよ」
「ああ見てたよ、綾巴を助けてくれてありがとう」
「パパ、とはあなたの事だったんですか」
「んっ、いい男・・・血の美味しそうな人・・・」
「とりあえず黙っていましょうか」
男の名は颯と言う。かなりガタイの良い体格ながら、中身は悪い人ではなさそうだ。
だが渉はなぜか、彼から感じるものに不安を募らせていた。
まるで彼は、自分の正体を分かっているのではないか、と。
「パパ、暗罪黒兎って人見つかった?」
「いや、見つからなかった・・・」
含みのある言い方。もしかすると、彼はやはり気づいているのか。
「あんた、暗罪黒兎というやつを見なかったか」
「いえ、見てませんね・・・」
「・・・そうか。やつを追ってるんだが、どうもこの人混みでは見つからないか・・・」
「・・・追ってる?まさかあなたは警察の方で?」
「いや、警察とは無関係だよ。いたって普通の会社員さ、っと、あまり話してられない」
「淳おじさん?」
「ああ、あいつのとこ戻らないと。それじゃあんた、ありがとうな」
と、去るかと思ったその時、渉は颯に呼ばれ、耳元で告げられた。
「!!」
未央奈の家に帰ってきた渉は、あの言葉を思い出していた。
血を求めて発情する未央奈を押し戻しながら、意味を考えた。
「ねぇ、最後に何か言われてたんでしょ。何?言いなさいよ」
「・・・ナイフを」
渉はナイフを使い、自分で指を切った。未央奈は子供のように喜んで、指をしゃぶった。
「血をあげますから、これは秘密という事でいいでしょうか」
「んん、わかったわよぉ」
あの男も敵か味方か区別がつかないが、追っていると言っていた以上、味方の可能性は低い。
明日以降、逃げ出すにはどこを通ればいいのか。今は深く考えても答えは出ない。
明日に備えて、渉は寝る事にした。
「もう寝ちゃうの?」
「ええ、なんだか落ち着きません。明日に備えて寝ます。未央奈さん、毛布か何かありますか?」
「毛布って、まさか床で寝るつもりじゃないわよね?」
「ええ、そのつもりですが」
「何言ってるの、一緒の寝床があるじゃない」
ついさっき、血をあげた未央奈だ。興奮が頂点に達し、完全に一線を越えようとしている。
渉はそれを避けたかったのだが、既に未央奈に手を引かれ、後ろから抱き締められていた。
「わかる?あなたの血で、私の心が高ぶってるの・・・あ、ダメ、もう我慢できない・・・」
また血を、と思ったら、今度は渉にキスをした。キスをしながら、未央奈は手慣れたように下着をとっていく。数々の男とこうして関係を持って、最後に懐の凶刃が命と血を吸う。
まさか同じ目に遭わないだろうか。未央奈のことである。可能性は否定できない。
「んんっ、あぁん・・・体が、熱くて熱くて・・・ねぇ、ウサギって確か万年発情期なんでしょ?」
「ウサギは地球の生物で最弱と言われている動物です。絶滅を防ぐために進化したのが生殖能力で、オスもメスも常に発情しています」
「ウサギって、人に似てるわよね。人だって物がなければ弱いし、発情したら意地でもセックスしようとするわよね?童貞君なんか特に」
「う、うーん」
「ただ違うのは、夢を見るかどうかよね。あのグラビア美女と結婚したい、アイドルと結婚したい。そして毎日でもセックスしたい。叶うのは星の数の中から選ばれるような確率で運を使う人よ」
「・・・まあ、そうでしょうね」
「でもね、そういう感情を感じられるから自己愛という感情もあると思うの。夢のような確率よりも手軽に快感を得られる方法が、この世にはたくさんある」
「・・・」
「私もそう。夢を見るより簡単に手に入る幸せを感じたいの。あんな、大きな夢なんか見なければ・・・」
この言い方。未央奈は過去に何があったのだろうか。元から血が好きだったわけではないようだが、今のような人格になるまでにどれほどの事があったのか。
それを気にしつつも、興が削がれる前にセックスをしなければ、未央奈は満足してくれない。
渉は未央奈の体を擦りながら、二度目のキスをした。