03
時刻は夜の8時。未央奈と渉は二人で夜の街をこそこそと進む。
痴女がいなくなった代わりに組んだ血女。考えてみれば未央奈も、血を欲すという意味で殺人や傷害事件を繰り返してきた、大犯罪者なのだ。
互いに味方はいない、四面楚歌の状況下にありながら、未央奈は楽しんでいた。
「そんなに私達を捕まえたいのかしら、どこにでも警察がいるわね」
「顔を隠す手段はむしろバレそうな気もしますねぇ、出来れば車でも拝借して移動したいですが」
「途中で検問にでも引っ掛かるんじゃないかしら、裏道だけ進むのもちょっと危険だし」
「未央奈さんは血が欲しくなって警察官を刺しそうですしね」
「嬉しい事言ってくれるわね、そうよ、血が足りないと私・・・」
「油断できませんね」
「うふぅ、でもあなたの血だったら3日はエネルギッシュでいられるわ・・・あの味を思い出したら、ああもう・・・」
「帰ってからですよ、未央奈さん」
「仕方ないでしょ、あんな美味しい血なら・・・」
興奮した未央奈を落ち着かせるだけで、逃げるためのエネルギーまで使いそうである。渉は信号が青になったのを確認すると、無理矢理未央奈の手を引っ張って歩道を渡った。
ネオンの光輝く街を歩くのは人混みに紛れて警察を撒きやすいが、離れると目立つ。
しかもこのあたり、妙にその筋の男達が多く、違法な客引きに引っ掛かることはないのかが心配だ。
名前がバレたら通報もあり得る為、未央奈以外とは関わらない。そう、決めていた矢先であった。
「や!結構です!」
「まあまあ、いいじゃん別にさ、ちょっとだけだからさ?」
「やだ、パパが待ってるんだから、早く帰らないといけないんです」
「パパ?大丈夫だよ、パパに怒られないようにすぐ終わらせるからさ、ね、ちょっとだけ!」
あれも違法な客引きか。絡まれている女性は20代前半と言ったところ。
関わらないようにとは言ったが、目の前で見てしまっては仕方ない。
渉は顔を隠して近づいた。
「やめてよ、ちょ・・・えっ?」
「あ?何、あんた」
「・・・嫌だと言ってるなら、離してあげましょう」
「あ?俺らがこいつに嫌がってる事したってか?いつした?というか見たのかよ?」
「はっきり見ていました・・・?」
「ん?」
男の二の腕を誰かが掴んだ。その方を向くと、黒いスーツを着たガタイの良い男が睨みをきかせていた。
「何だよテメェ?」
「お嬢さんを逃がしてやれ」
「なんだ、さっきからどいつもこいつも・・・」
「あんたも離れろ」
「・・・ちっ」
男は何もせず、その場を去っていった。
「大丈夫か、綾巴」
「うん」