02
「来てくれると思ってたわ」
「何でしょうね、血女だとかいう騒ぎはもうこの街ではどうでもいい話になっているようですが」
「自由に立ち回れるわ、あなたのお陰で」
暗罪黒兎の生存。血に飢えた魔女などもはやどうでもよくなっていた。
連絡先を渡していたのは、もしかすると暗罪黒兎だと見抜いていたからなのか。いや、そんなはずはない。
単に次の獲物を見定めていたからなのか。どちらにしろ、彼女を味方につけるのは都合がいいのは確かだ。
「それじゃ私との契約の証に・・・あなたの血を頂戴」
「血、ですか」
「ナイフで刺せなんて言わないわ、指を少し切って、血を流してくれればいいの」
「ナイフは持ってないですね、困りました」
「私が持ってるわ、これで、ほら」
手慣れたようにナイフを渡してきたが、やはり自傷は抵抗がある。
手に取ったはいいが指がでない。すると未央奈はナイフを取り上げ、渉の指を取った。
「動いちゃダメよ」
「・・・っ!!」
「うっ、嫌ぁ」
「んふふ、血よ、犯罪者の血・・・契約成立ね」
未央奈は性的興奮を抑えられず、血の流れる指をしゃぶった。
赤ちゃんがおしゃぶりをしゃぶるかのように、ちゅ、ちゅ、と指ごと血を舐める姿は異様だ。
「ん〜、ん、いい、汚い人間の血、苦くて、深みにはまって、抜け出せない・・・」
まるで自分の事を指すような言葉。
深みにはまり、抜け出せなくなり、堕ちるところまで堕ちた。
だからこんな人間になっているのに渉は絶望も何もなかった。
「ありがと・・・ああ、熱い、熱くて堪らない・・・だめ、濡れてるわ・・・」
「そんなに興奮する人間は見たことないですねえ・・・」
「死人の血じゃ、味がしないのよ。生き血の味・・・もう堪らないの。ねぇ、もう一ついい?」
「なんでしょう・・・」
「美味しい血をくれたお礼をあげる・・・」
未央奈はおもむろに服を脱ぎ始めたが、渉はそれを止めた。
「そんな関係は望んでいませんよ。それに契約は成立したんですし、話を進めたいのですが」
「んん、遠慮するなんて・・・でもいい、この街から脱出するまでに、必ず受け取ってもらえれば・・・また血も欲しいし」
狂喜する未央奈と手を組んだ渉は、未央奈の家を隠れ場所に脱出計画を始動させた。
街中が警察に張られる中、祐唯を追って抜け出すことはできるのか。