12
「・・・・・・懐かしい」
飛鳥との過去。鮮明な記憶の再生が夢となって出てきていた。渉は起きあがると周りを見渡した。
当然ながら飛鳥はいない。自分の隣にいたのは、失神するまでセックスを続けた宮脇咲良だけだった。
あの夜の記憶を思い返すと、駐車場で神崎の部下を全員殺し、“痴女”の宮脇咲良を連れて逃走。それから誰かの目につく前にこのホテルに入ったまではいいが、数日が経っているうえに何かを忘れているのか、思い出せないことがある。
シャワーを浴び終えたあと、渉は自身の服を漁って持ち物を確かめた。
財布や携帯電話はいいとして、それ以外に何かないのか。するとコートのポケットから、見覚えのあるものが出てきた。
「・・・祐唯・・・あ!」
そう、足りなかった記憶。それはこの名前。今泉祐唯。今まで約4ヶ月は一緒にいた、旅の仲間。
たった4ヶ月ではあるが、彼女はこの旅で渉にひとつの希望を与えた。何もかも失い、堕ちた存在となった渉にとって大切な存在となった。
飛鳥とは違う感情。渉は服を着ると宮脇咲良を起こした。
「んん、ん・・・あれ、渉さん?」
「行きますよ」
「え、待って、シャワーくらい浴びたいよぉ」
「すみませんが、時間がありませんので。自分には今すぐに行かなければならないところがあります」
「どこまで行くの?」
「・・・祐唯さんの所まで」