case.6 齋藤飛鳥
07
「ねえ、これ本当にくれるの」

「ああ、君のために買ったんだ」


「こんな服、着たことない・・・」


飛鳥のために服を買った黒兎。
年頃の女の子ならお小遣いを貯めて通いそうな場所も、飛鳥に馴染みはなかったのである。それを察して、黒兎は連れてきたのだ。


「まるで娘に服を買ってあげてる気分になるね」

「・・・娘・・・そうだ、言ってたよね、家族がいたんだっけ」

「君と同じだ」

「なくしたんだよね」

「そう、全てね」


境遇の似た二人はシンパシーを感じていた。本来ならばわかり合う事はあり得ない立場なのに、自然と距離を縮めていく。


「ねえ、ちょっといい」

「どうかしたかな」

「さっきの海で泳ぎたい」

「・・・水着、か」



先程の店とは別の店。飛鳥のサイズに合う水着を探して、黒兎は車を走らせた。正直、今日は車中泊にして帰らないつもりでもいた。
次の日に飛鳥と遊んで、果ては二泊三日のスケジュールでもよかれと思っていた。
だんだん、組織の思惑に反して飛鳥と過ごす時間の大切さを考え始めた黒兎は、飛鳥の水着を買うと車に戻る前にコンビニへ寄った。


「夜ご飯はここで買うよ」

「え?」

「今日は帰らない。車で寝るから」

「え、でも、あの人達は・・・」


「・・・気にしなくていい」



黒兎は、ここで一つの決意を固めていた。

壮流 ( 2017/06/26(月) 00:03 )