04
「・・・顔を上げてくれないか」
「・・・」
飛鳥は黒兎の声に反応して顔を上げた。
「君は外国人のマフィアか、犯罪組織か、はたまた金持ちの召し使いか分からないが、高い金で売られる」
「・・・」
「残念だが、売られた先は何があっても地獄になる。君は人間以下と見なされてしまうわけだから仕方ないんだが・・・」
「・・・」
「ここでは、そうやって君くらいの女の子や、もう少し歳上の男の子を幾人と売ってきた。その一人に君もなってしまうのだが、その前に話でもしないかと思うんだ、どうかな」
「・・・」
「・・・聞く必要もなかったかな。それなら、一人言を喋っているから気にしないでいい」
今の飛鳥に、そんな気力も思考もなかった。あったとしても聞く耳を持ってくれるとは思えなかったため、黒兎は一人言として喋り出した。
「おそらく君は過去に売り飛ばした女の子の中でも最高級の価値がつくだろうな。正直な所、うちの組織の中にもいるんだ。君を売るなんて勿体無い、っていう人が」
「・・・」
「今までに何人か、そうやって品物にならなくした例もある。だけど、その後の結末は変わらない。性欲の赴くまま、いかがわしいお店に出されたり、映像に残されて世界中に淫らな姿を晒されたり」
「・・・」
「そして最後にはどうなるか・・・想像はできるだろうけど」
「・・・」
「そう、自殺さ。飛び降り、溺死、首吊り・・・早く楽になろうと、皆死ににいく」
「・・・」
「ところが残念ながら、うちの組織にそれを哀しむ人はいない。人を売る事を生業にする以上、感情というものはないのさ」
「・・・」
「・・・だけどね、今回ばかりは、自分は君に同情するよ」
「・・・」
「自分は・・・」
「おお、ここにいたのか、黒兎」
やってきたのは組織の上司。一人言を語る時間は終わりを迎えた。
「黒兎も欲しいのか?」
「・・・いいえと言うと嘘ですね。彼女は貴重ですから、勿体無いとも思います」
「ははは、黒兎も男だなぁ。で、そうだ黒兎、また買い手が来たから、ボスが来いってよ」
「おっと、それは失礼」
黒兎は部屋を出る前に、ちらっと飛鳥を見た。
(ん?今のは・・・?)
飛鳥からの視線を感じた、そう思う黒兎だが確認する時間はなかった。