うさぎ男 - case.6 齋藤飛鳥
03
白兎夜渉改め、闇罪黒兎、10年前。



「闇罪さん!客が来ましたぜ」

「・・・来ましたか」


当時、ある人身売買の組織の中でパイプ役を務めていた闇罪黒兎。
“買い手”や“出品者”とは細かな情報のやり取りをし、都合の悪いことは徹底して避ける計画主義の男。
今日やってきたのは、神崎という男であった。


「神崎さんも、仕事が忙しそうで」

「人間誰しも生き地獄なんてのは嫌だからよぅ、なら即ぶち殺してやる方が楽になれる。俺は生き地獄からそのガキ共を救ってやってんだぜ」

「ふっ、じゃ、それを売り飛ばす自分らは、また地獄に堕としてる悪魔ってわけで」

「そうは言ってねぇよ」

「手が汚いのはこっちである、その変わりませんよ」

「へへ。さてと、そんなわけでだ、今回も頼むぜ。今回は特別に上玉な獲物だぜ」


神崎の部下に連れられて入ってきたのは、とても小柄な女の子だった。
生気を抜かれたようにぼーっとした表情をしているが、涙の痕はしっかりと残っていた。



「齋藤飛鳥ってんだ。14歳だぜ」

「14歳。にしても小柄ですねぇ」

「だろ。だから特別上玉なんだ。外国人なんか、若い女にゃ喜んで食いつくだろうよ。とびきりの高値で売り飛ばしてくれよ」

「・・・契約は売り上げの一割。今回の一割は、相当大きな数字になりそうですねぇ」

「へへ、そいつはあんたらの腕がものを言うんだろ。じゃ、後はよろしく。今日は用事があるから失礼」




齋藤飛鳥を連れ、黒兎は組織の人間に見せた。組長は勿論、組員全員が拍手喝采で喜んでいた。

「こんな上玉は久しぶりだな」

「神崎のやつもいい仕事しますね」

「闇罪さん、期待してますよ!」


「・・・」


「?・・・どうした、黒兎?」

「・・・ああ、いえ、ちと久しぶりに心持ちが、ね」

「へっ、緊張してんのか?お前らしくない。まあ、それだけこっちは信用してるって事だ、後は任せるぞ」

「・・・いつも以上に気合いが入りますね、頑張ります」



飛鳥は事務所の地下に監禁。その間に、黒兎は彼女の家庭について調査した報告書を読んでいた。


「闇罪さん、あの子どういう家庭にいたんですかね?」

「・・・どうやら事故で何もかも無くしたそうですねぇ」

「はぁ、可哀想だなぁ」

「・・・5年前、彼女の姉の結婚式にて。彼女を含め、親族も全員集まったみたいですが、その最中・・・電飾のショートによって機材の爆発事故が発生、火事が起きて教会の中にいた親族が全員死亡、相手の親族も数人を残して死亡。その他を含め、当時死亡者57人、怪我人が32人という大事故が起きたそうですね。そしてその生き残りが、あの齋藤飛鳥・・・」

「そりゃ不運な」

「その後、彼女は学校の友人の家庭に引き取られたが、神崎さんが目をつけたという事らしいですねぇ」

「神崎に目をつけられちゃおしまいだけど、そんなんじゃ死にたくもなるよなぁ。俺なら連れてかれる前、いや、その事故の次の日には身投げしてると思うな」


「・・・いや、本当に正しい反応は“ここはどこ?私は誰?”ですよ。身投げの前に、何も考えられなくなるから絶望なんです」

「へぇ。闇罪さんの考えも納得できるっちゃ出来ますねぇ」


「それより、あの子はどこに?ちょっと気になることがあります」


「え、ああ、こっちです」

壮流 ( 2017/05/29(月) 00:27 )