02
高橋警部が外に出てすぐ、携帯に着信がきた。相手は“兄さん”からだった。
「もしもし、兄さん」
「朝から悪ぃ、事件は進んだか?」
「いや、闇罪黒兎はまだ見つかってない」
「そうか。じゃもう一つの方は?」
「ああ、犯人が割り出せたよ。朱里のお陰でわかった。神崎を殺した犯人は堀未央奈という女性だったよ。この街じゃ“血女”って呼ばれてるんだよね」
「ありゃ久しぶりにビビったぜ。蜂の巣になる位にナイフで刺しまくる女、怖ぇよな、そりゃ。そして血の海の中に裸で倒れこんで笑ってやがった」
「まるで魔女、いや、ヴァンパイアだな」
「殺した男の血を体中に塗りたくって“あははは・・・”なんて高笑いしてたらヴァンパイアも引くぜ。血を見たら興奮で頭のネジ外れるなんて相当な女だぜ、ありゃ」
「うぅ、本当に怖いな、それ。で、兄さんはその堀未央奈の経歴調べてくれた?」
「当たり前だろ」
「じゃ、いつもの朱里の事務所に置いといて」
「あっ、忘れてた。今日は用事があるから朱里がいねぇんだ。颯に警視庁まで届けさせる事にしたんだ」
「そうなの、じゃいつもの喫茶店まで来るように連絡してくれる?」
「ああ、わかった」
血女の正体は堀未央奈。もしかしたら渉も刺されていたかもしれない。
電話から30分。高橋警部はいつもの喫茶店と呼んだ店に入った。奥の席には、高橋警部に気付いた男が席を立ち、席へと迎えた。
「颯さん、こんにちは」
「久しぶり。大忙しだって時に悪いな」
「いいんですよ。外に出てる時は、こちらの独自捜査ですから」
「でもこれからもっと大変なんじゃないか」
「そうですね、多分」
「これで捜査が進むかは分からないけど、とりあえず注文の品だ」
「ありがとうございます」
封を切り、中身を見ると、内容は堀未央奈の身辺調査書だった。
事細かに堀未央奈の過去が書かれており、高橋警部は調査した探偵に感心しながら読み進めた。
「堀未央奈という女性は、昔から血を見たら性的興奮で頭がおかしくなっていたようですね。ほらここ見てください、小学生のご友人の話によれば、包丁で指を切った時に、その指ごと血を吸ったというエピソードまで書いてくれてます」
「ティッシュ貸してやるのが普通なんだろうに、指ごと吸うとは」
「結果、ついたあだ名が“吸血鬼”や“ゾンビ”だそうで」
「ゾンビは血は吸わないだろ」
「いわゆる、怖い存在ならなんでもよかったんじゃないでしょうかね」
「俺なら震えあがるな、指ごと吸われたら」
「颯さん潔癖症でしたもんね」
「そうなんだよ・・・で、俺の話はいいとして、もう一人、逮捕するやつがいるんだろ」
「ああ、闇罪黒兎ですね。どこにいるのか分かりませんが、殺人を犯したのは明白な事実なんです。絶対に逮捕します」
「俺はニュースで聞いた事しか覚えてないが、人身売買の組織の人間だったんだよな」
「そうです。ただ、組織は突然壊滅しましたが」
「確か、逃げ出した時に一緒にいた当時の少女も、後にテレビに出たはずだよな。名前は・・・あ、齋藤飛鳥だったっけ」
「そうです、よく覚えてますね」
「あんな大事件だったんだ、忘れないよ」
「はは・・・でもあの時、何があったのか、それは本人から聞かないと分かりません。また朱里に調べてもらわないと」
渉と組織、そして齋藤飛鳥という、当時一緒に逃げ出した少女。
その過去と真実は何なのか。