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「白兎夜渉は今から約9年前、ある犯罪組織の重鎮を担っていました。当時は警視庁でも大騒ぎでした。あんな大物の犯罪組織だから、何よりも優先していた・・・ところが、その組織はある日突然謎の壊滅を遂げて、事件は終息してしまいました」
「謎の壊滅って、どうなったんですか?」
「・・・組織の人間が全て、本拠地としていた事務所ごと爆破してふっ飛んだんです」
「え・・・」
「しかし、一人だけ、その場から逃げ出した男がいる事が後にわかりました。それが、白兎夜渉です」
「白兎夜さん、その犯罪組織の人だったんですか・・・」
「その組織は人身売買の集団で、白兎夜渉は別の同業者や買い手とのパイプ役を担当していたらしいです」
「・・・人身売買の・・・」
「ところが、その組織は壊滅して、白兎夜渉は一人、生き残って逃げ出しました。その当時、何が起きたのかというと・・・」
「・・・もしかして、警察から逃げたんですか?」
「・・・先ほど、組織の人間が爆破で全員死亡したと言いましたが、その爆破を実行した犯人は白兎夜渉でした。その爆破を遠くから見た市民から通報があり、警察は出動しましたが、既に残った人はいませんでした」
「・・・じゃ、やっぱり・・・」
「・・・ところが、実はその可能性があり得無いという結論になったんです」
「え?」
「実はその事務所から、白兎夜渉と共に逃げ出した少女がいたんです。その少女の証言によると、“三日前に白兎夜渉と一緒に逃げた”との事です」
「三日前って、じゃ誰が爆破を?」
「捜査の結果、爆破は白兎夜渉と手を組んでいた同業者が自身も一緒に吹き飛ばした、という結論に至りました。その同業者の遺書が爆破から二カ月後に自宅で発見され、その結論が確実なものになったのです」
「・・・」
「白兎夜渉、今でも彼は指名手配されています。ただし、名前は違いますが。本当の名は今泉さんは見たことがあるのではないでしょうか」
「・・・何ていうんですか」
「闇罪黒兎(あんざい くろと)という男、知ってますか?」
「あっ!見たことある・・・」
「彼の正体です。今泉さんのご両親から、あなたがしばらく旅に出ていた、しかも同行者もいると。それがまさか闇罪黒兎だとは思ってもいませんでした。それ故に、あなたは昨夜誘拐され、あの事件に巻き込まれたのです。あなたが売られる、そう勘違いしたのでしょう」
「そんな事・・・」
「おまけに、奴に強姦をされた、という女性からの通報も数十件と入っています。いずれにせよ、白兎夜渉は逮捕します」
突きつけられた現実。高橋警部が嘘を言っているようには見えない。
途中で佑唯の心身の変化を気にして話を躊躇う場面もあった。
だが聞かなければ、知らなければならない現実はあまりにも非情なものだった。
佑唯は顔を押さえて伏せた。
「・・・では、以上です。長い時間の聴取に感謝します。失礼します」